奏と休日と

 休みの日は、家でダラダラするんだと決めている奏。

 11時くらいまでは、疲れぇぇぇた身体ぁぁぁを甘やかしてやるぞぉぉぉと、二度寝を慣行する。

「そのヨダレまみれの枕。僕以外に洗ってくれるやつなんか誰もいないんだからな!」

『むぅ・・・』

 昨夜も、漫才っぽく楽しく言い争った。

 だが、いくらそんなことを言われても『なんやかんやで優しいなぁ。ふふっ』と愛情を胸一杯に受け取り、気になどしない。

 ・・・

 一応クンクンと枕を嗅いでみる。


 臭う? んんん・・・


 また洗ってもらえばいいじゃーーーんと、今朝も大好きな枕にマーキング。

 自分で洗ったことは一度もないが、これでも色々と敏感な20代女子。

 最近は、枕カバーを買おうかしら? と、少し申し訳ない気持ちも湧いてきている。

 ただ、甘えさせてくれる人がいるなら甘えてしまいたいダメな20代女子。

 すると突然、なにやら外が騒がしくなってきた。

 サイレンの音。パトカー? 救急車? 消防車? 未だに区別がつかない。

 がっつり二度寝を決め込んで、静寂だけが支配する幸せ空間に「ピンポーン」とインターフォンまでもが鳴り響く。


 ハッ!


 ビクッと驚いて5歳ほど歳を取ってしまった。


 変なセールスや詐欺まがいの電話を『はい、はい・・・へぇ、そうなんですかぁ』と最後まで素直に聞いてしまう性格故、

「出なくていい」

「絶対に出るな」

 って言われてるもん出ないもん。


 先日も、道端で声を掛けてきたセールスマンの話を断り切れず、さらに次回会う約束までしてしまい、こっぴどく怒られたばかりなのだ。

 居留守を使う。


 ・・・


 でも誰なのか気になるので、一応モニター付きインターフォンを覗きに、ベッドを降りる。


 !!!!


 ぅおおおいいいぃ!!!

 警察官!?

 えっ、あの人なにかしたのか?

 事件か?

 私か?

 昨日なにかしたっけか?

 んにゃ、警察警察詐欺かもしれない!


 騒がしくなった脳内を必死に整理させながら、一旦落ち着こうとベランダに出て外の様子を覗き込む。

 パトカーと消防車が停まっていた。


 消防車だ!


 なんだよ火事かぁそうかぁ火事なのかぁそれならよかった。無駄にドキドキしてしまったではないか。と、一気に安堵に包まれ居留守続行でベッドに戻る。


 ふふん。帰ってきたら話してやろう。にしし。


「もし本当にマンションが火事だったら、大変なことになってたんじゃないの?」

『ハッ!』

「夕方のニュースで、炎と黒煙が上がるマンションの映像と同時に、キャスターが君の名前を読み上げるんだよ。下のテロップに出るんだ。大月奏さん、かっこ26って」


 期待していたものとは違うリアクションが返ってくることを、まだこの時は知らない幸せな居留守犯 大月奏 26歳。

 もう意識はハッキリしてしまっているし、眠れるテンションでもないが、時計の針はまだ9時を回ったところだ。インドア派の朝は長い。


 愛するベッドちゃん。もう少し私を包み込んでくれたまえ。


 携帯の画面をシャッシャといじりながらゴロゴロ、ゴロゴロ。最近絶賛どハマり中、カマたくさんの動画に癒されながら、ゴロゴロ、ゴロゴロ。

 いいだけゴロゴロしたところで、お気に入り「在日ファンク」の「足元」を聞きながら、軽やかに洗面所へと足を運ぶ。

『ヘイ!ユッ!足元を見ろっ!ちゃっちゃ~ちゃらららちゃららら~』

 どれだけお気に入りの曲であろうが、出だし以外まともに歌えたためしはない。

『探し物はなんですかー。見付けにくいものですかー。鞄の中も、ちゃらららららら』

 いつもこんな感じ・・・

 起きたらまず歯を磨き歯を磨き、歯を磨き。あとから磨き始める僕のほうが先に終わるほど、朝晩必ず入念に磨く。

 理由は簡単。歯医者さんに行くのが怖いからだ。

 たまに、歯を磨けず寝落ちしてしまう僕がいると

『起きて! ほら歯磨き! 歯磨きしないと!』

 虫歯になって通わなくて済んでいることを、いつもうらめしそうに脇腹を突いてくる。

『なんで私だけ虫歯になるの! てぃ!』

 爆睡してる脇腹に手刀・・・


 一人朝ご飯の時は、だいたい食パン2枚か、前日の帰宅前にコンビニで調達しておいた菓子パン。

 いつも淹れて貰えるコーヒーよりも苦めのを淹れて、ゆっくりとニュース番組を見る。

 食べ終えたら、お昼を過ぎて面倒臭くならないうちに必ず買い物に行く。

 奏のモーニングルーティーン。総再生回数34。

 足の太さを見事にカバーしてくれる少し太めの八分丈パンツ。もう手放せないほど気に入っているし、ちょっとしたお出かけの時は必ずこれ。問題は上に何を着るべきか?

「僕の服、着てないの沢山あって可哀想だから代わりに着てあげてよ」

 そう伝え続けた効果もあってか、最近は赤や黄色、緑にピンクといった原色も好んで着るようになった。

『んーーー、最近黄色が好きだと判明しました!』

 野球のバットを構えたパンダが可愛い黄色いTシャツ。その上から大きめのシャツを羽織ったら、太っちょスタイルがバレないダボダボコーデの完成。


 ふふん。


 チャイハネのワンショルダーを肩にかけ、本日も気分良く家を出る。


 いってくるのだ!

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