奏とトレッキングハットと その2

 出逢った当時から、一緒に映画鑑賞やテレビを見て過ごすことが、日常化されていた二人。洋画に強い僕と邦画に強い奏。

『くそー、推してくれる映画がどれもこれも面白いっ! 』

 そう言って、負けじと紹介してくれる中には、新たな発見もあり、こうした二人の時間が本当に楽しくてしかたない。

 だが、邦画。特にドラマの趣味だけは、なかなかお互いにフィットしなかった。主に学生恋愛ものだ。

 大概、途中で集中し切れなくなった僕は、奏の観察に切り替える。

 好みの男性のタイプは、まん丸フォルムやイケオジ。渋ければ渋いほど好い。

 昼ドラやゴールデン時間帯タイム。そんな俳優さんが出演していると、自分の世界に入り込んで、テレビの前からピクリとも動かなくなる。

 刑事ドラマに夢中になりすぎて、ニヤニヤが収まらなかったり、恋愛ドラマにキュンキュンした感情を隠し切れず、キラッキラしている。

 あまりにも面白いから、いつも携帯で堂々と撮影をしているが、大好きなアニメを見ている子供みたいに気付きもしない。

 僕がクスクス笑い出すと、そこで初めて

『うにゃー』

 と唸り声をあげて

『気配を感じる、やめろー』

 照れながらジタバタ襲い掛かってくるのだ。

『写真、嫌だ撮らないで!』

「動画です」

『うにゃーーーーー!!!』

 一緒に居て、飽きることはない。

 そんな奏。お世辞にも美人というタイプではない。どちらかと言えば可愛らしいタイプ。そう勝手に位置付けしている。

 日本美人だったり、平たい顔族と表現したほうが、しっくりくるだろうか。

 ちなみに僕は、某テレビ局のベテランメイクさんに「お兄ちゃん昭和顔で男前やわ」と評価された。

 褒められてるのだろうか?

 まぁ、少し濃いめのお顔をしています。

 奏本人は、顔のことを凄く気にしていて、

『ブスだもん、デブだもん』

 と、あまりにも気にするので

「僕一人が、可愛いと言っているだけじゃダメなのか?」

 そう強引に洗脳を続けている。これって惚気?

 だがその効果は少しずつ出てきている。

 学生時代から前髪で目元を覆い隠して生きてきたほど、自分の容姿に自信を持たず、周りの視線をシャットアウトしてきた奏。

 そんな彼女が、たまにおでこを出して一緒に出掛けることも増えてきた。

 学生時代の写真を見せて貰ったけど、ポテチをドナルドダックの口に見立ててくわえるその陽気な姿を、普通に可愛いと感じるのは僕だけなんだろうか?

 眉毛は神様から頂いたまんまだし、もちろんお化粧なんて一切しない。

 流行りの服や装飾品で着飾りもしなければ、首元や裾がヨレヨレでも、永遠とエンドレスで着回すほど自分にお金をかけず、そのうえ地味を愛するモノトーン女子。

 最近でこそ、古着屋さんで手に入れた上下で三千円の洋服を

『お母さんと買い物に行って洋服を新調してしまった。今夜ファッションショーしたら見てくれる?』

 と、普段は見せないような少し笑顔で嬉しそうにお披露目してくれたが、一度の買い物で洋服に掛ける金額は、上限五百円までと決めている。

 一桁違うと思われるかもしれないが、そうなのだ。

 自分のカップサイズに合った下着すら、まともに購入しないのだから、この時は我が子が巣立っていくほどの喜びを感じたものだ。

 付き合い始めて数ヵ月が経った頃。友人に強引に買わされたらしい、僕用に購入してくれたビキニのような派手派手勝負下着は、一度だけ目にしたあと、箪笥で永眠している・・・

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