黒き鋼のアルマ ~機械の体で異世界に放りこまれた俺、早く人間になりたい!~
日賀霧雄
001_questlog.墜落
不意に大きな衝撃を感じて目が覚めた。
覚めたはずなんだが、何も見えない。
俺の部屋は、真夜中でも真っ暗になることはないはずなんだが。
〈ああもう! なんであんなとこに、あんなものがあるのよぉ!〉
苛立つ女の声が聞こえた。
聞き覚えのある声だ。
声の主を探して辺りを見渡すも、相変わらず何も見えない。
――夢かな?
〈くぅ! 制御不可能か……しょうがない、強制パージ!〉
困りきった感じの女の声が終わると同時に、先ほど感じた衝撃よりもはるかに強烈な衝撃が襲ってきた。
黒い闇が割れて、光が溢れだす。
押し寄せた光の奔流に一瞬だけ、視界が白に染まる。
白から次第に視界が色づいていく。水色と深い緑、そしてエメラルドグリーン。
その色が、雲一つない空と、広大な森林、そして湖だと理解するのにしばしかかった。
もっとも、理解が及ぶ前に空気の壁にもみくちゃにされて、細かなところを見る余裕すらなかったのだが。
それでも、どういう状況なのかは理解できた。
すなわち――俺、むちゃ高いところから落ちてるやん!
「何が、どうなってんの!?」
俺の声に心底驚いたような女の声が響く。
〈うっそ、なんで目覚めてんのよ!?〉
というか、この声、耳で聞いてる声じゃない。脳内に直接響いてるわ。
「こいつ直接脳内に……!?」
〈…………はぁ〉
俺の会心の返しは、押し殺した溜め息で返されてしまった。
いたたまれなくなった俺は、じっと手を見る。
ごっつい金属の手だった。
艶消しの黒に塗られた無骨な四角い指。関節部分は蛇腹っぽい構造だ。
「は……?」
一瞬、我が目を疑ったが、すぐに気が付いた。
見覚えのある手だ。
〈減速、減速ぅぅっ!〉
悲鳴のような女の声が脳内に響き、俺は現実に目を向ける。
そういや、絶賛落下中だったな。
半ば諦めの境地で正面を見据える。
エメラルドグリーンの湖面が視界一杯に広がっていた。
「夢かな……? 夢だったらいいな……」
いまだかつて体験したことのない衝撃が俺の体を襲った。
○
歌声が聞こえる。
ゆったりと、のんびりとした歌だ。子守歌か、それとも童謡か。そんな趣だ。
ただ、ずいぶんと籠もった音に聞こえる。
なにより、聞き慣れない言葉だ。少なくとも日本語じゃあない。
ふと目が覚めた。
視界に入ったのは、煌めく光と、ゆらゆらと揺れる緑色の草のようなもの。
水中だとすぐに気づいた。
それでも水の冷たさは感じないし、息が苦しくなることもない。
というか、息してないわ、俺。
――夢かな?
まあ、夢ならしょうがない。実はもう死んでて、これが三途の川底とか思いたくないので、夢ということにしておく。
どうやら、浅い水底に横たわっているようだと分かった。
身を起こすと体にまとわりついていた緑色の藻が水中にゆっくりと広がっていき、ナマズのような大きな魚が慌てて泳ぎ去っていった。
俺の体を住処にしていたのだろう。すまんね、いきなり追い出しちゃって。
三途の川にしては穏やかだし生命に溢れている。これなら、俺はまだ死んじゃいないなと微かに安堵するも、夢にしては妙にリアルだ。
水の抵抗を感じるし、水底から巻きあがる堆積物も歴史を感じさせる。微かに聞こえる波の音と、未だ聞こえるのんびりとした歌声。夢にしてはやたらと情報量が多い。
あれこれと考えながらも、俺はのったりと水底を歩き続け、ついに顔が水面から出た。
辺りを見渡す。
やはりというか、当然というか、俺が落っこちたエメラルドグリーンの湖だった。
どうやら、湖面に激突死とかしなかったようだ。確か、アメリカのゴールデンゲートブリッジが高さ76mで、転落時の生存率が2%とかなんとか。その確率を考えれば、俺が生きていることは奇跡と言っていい。
息してないけどな。
そうして、完全に湖から出て、湖面に己の姿を写し見る。
手を見たときから予想はしていた。
身長は2メートルを超えているだろう。
艶消しの黒をベースに、深い赤で縁取りされた鋼鉄の装甲に覆われた体。
フルプレートを着込んだ騎士、と言えなくもないが、非常に苦しい。
中に人間が入っているとは思えないシルエットなのだ。
異様に広い肩幅と股関節。鋭角的なフォルムをした小さな頭。体格に比べて異常に小さな足。内臓なんかないぞう!と言わんばかりに細いウェスト。
うん、これアレだ――俺、ロボットだ。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます