第1章  サウード編

第1話  不幸な少年

 アラビア半島の大部分を占める砂漠国。気温四十度を超えるサウジアラビアの砂漠気候、サハラ砂漠の中央部分を一人の男が歩いている。


 「あぢぃ」


 少年の名は尾崎凰太おざきこうた。普通に暮らしているのであればただのしがない一般人。何気なく友達と会話し、テストが近づくと嫌だなんだと喚く手の掛かる高校2年生である。


 暑いのが嫌いならなぜ砂漠に?ーと、質問したい気がするが凰太にとってそんなこと耳が潰れるぐらい聞かされた話だ。


 両親曰く、「戦争が始まった。ここまで育て上げた息子が兵士として戦場に行くなんて納得がいかない」とのこと。


 では食糧を持って友人と一緒に戦地へ突入するのと自分一人でこっそり飛行機に忍び込んで中東に飛ばされるのはどっちがマシなんだ、っと尋ねた凰太は返答を聞く間も無く飛行機に押し込まれた。


 しかし理不尽なのはここからだった。


 寝ている最中、飛行機の荷物室に入れられた凰太はあることに気がつく。


 「あれ、飯は?」


 人がギリギリ入れるスペースの旅行バックに押し込まれたため他に何もない。替えの服、水、食料、電子機器等等が手元になかったのだ。


 つまり、

 具体的な行き先もわからない、食料もない、現地の硬貨スマホすらないという負の三神器が揃った証拠。


 「要は死ねってこと?」


 康太の目の前に暗雲が漂っていく。普段から箸と串、茶筅と茶碗を間違えて哀れみの視線を送っていた康太も息子に死んでこいと言わんばかりの現状に怒りをたてた。


 中東安全だと言われてるのはあくまで戦争に関してだけ。他の面は最悪極まりない。スリや孤児がたむろする国に裸一貫で突撃する気は起こらなかった。


 凰太はそう思うがせざる負えないのがなかなかに痛手だ。


 そんなこんなで右往左往してたわけだが、飛行機に強い揺れが伝わると荷物室から投げ出された。


 そこからの話は説明するまでもなく地獄。端的に言って飛行機の至る所からプシューという音が聞こえ、連鎖するように爆発が発生した。


 後から考えてみれば両親がどさくさに紛れ込んで荷物を詰め込める飛行機だから警備を手薄なはずである。おまけに旅客機ではなく航空貨物を運ぶ飛行機。安く仕上がったオンボロ飛行機に安全性を期待するべきではなかった。


 徐々に下がっていく高度。荷物室から投げ出された凰太は不時着してくれることを望みに墜落する飛行機に掴まっていた。自分以外に誰もいない。だからいっそう自分の悲鳴が大きく聞こえたのかもしれない。


 凰太はいつの間にか意識を失っていた。そして、




  ーーーったく、夏でもないのにどうしてこんなに暑いんだ。いや夏? だめだ、中東と日本の時差なんて知らねえ。


 ボケとツッコミを一人で補っている現状にたどり着く。


 ここは何処か?ーそんな事は分かっている。今いるのは地面が砂漠なことからサウジアラビアだろうと凰太は結論付けている。これは決して知ったかぶりではく事実。現に戦争の影響により人間の新型兵器の材料として適した砂は世界各国で回収され、膨大な量を誇るサウジアラビアしかもう残っていない。


 墜落した飛行機の中にいた凰太は幸か不幸かで生き残っていた。服は幾度となく破れているが命に別状はない。中にある荷物を調べまわりたかったが一面火を上げていたため、命からがら逃げ出したのは得策と言えるだろう。


 色々と整理をしたい康太。けれどとりあえず人のいる街を目指して歩き始めることにした。


 が、


 真っ赤に燃える灼熱の太陽に早くも体が悲鳴をあげる。


ーーーまるで生き地獄。


 日本から出たことがない凰太にとって中東の気候に全く慣れ親しんでいなかった。段々と喉の渇きが酷くなる。終止符を打とうとしようにも手には紙切れ一つ存在しない。


 荷物室から投げ出される前、隣の荷物から手に入れたあるモノも現状を打開するに相応しくない。


 凰太はそう思いこちらに地獄を与え続ける元凶の方に向くと、思わず首を傾げる。


 空に小さいゴマ粒のような物が浮かんでいるからだ。


 空中に胡麻が存在するはずが無い。ついに暑くて頭が狂ったか。目を細め、確認する。それが予兆だと知らずに。


 「胡麻?、…ではなさそうだな。あれ、なんか近づいてきてねえか」


 空に浮かぶ黒い粒は段々とこちらに向かってきていた。やがて、それは人型を成していく。


 何故か解らないが、嫌な予感がする…が、どうでもいいと言えばどうでもいい。凰太はそう結論付け、人のいる場所へ歩き出した。


 その直後。



 ズドーン!!


 「は?」


 ひどく大きな音。康太のすぐ後ろ、ギリギリ当たらない僅差にとてつもない音が聞こえてきた。


 「人…じゃねえよな」


 後ろを振り向く勇気はない。あれが本当に人であれば砂とはいえ惨たらしい惨状になる。

 けれども、好奇心とは残酷だった。


 凰太はゆっくりと視線を、後ろに…

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