第17話
体育の授業中に水風船をした生徒は当然こっ酷く叱られたらしく、その日の放課後に彼女たちから謝られていた。
あの場では突然で驚いたものの、雅リアが助けてくれたおかげでなつめの秘密がバレることもなかったため、特に気にしていないのだ。
「王子、本当にごめん…」
「別に良いよ」
「風邪とか引いてない…?」
「大丈夫。これからは気をつけてね」
会話を終えてすぐに教室を見渡すが、目当てのピンク髪の彼女は既に教室を出てしまったようだった。
慌てて靴を履き替えてから、彼女に電話をする。
連絡先を交換していたというのに、こうして電話をするのは初めてかもしれない。
数コール経ってから、ようやく通話が繋がる。
耳元で聞こえる彼女の声は、機械越しなためかいつもより大人っぽく感じた。
『王子からの電話って初めてじゃん』
「今どこにいるの?」
『帰ってる途中』
「電車乗った?」
『まだ』
「駅前で待ってて」
駅までの道を急げば、約束通り駅前で一人佇む彼女を見つける。
相変わらずピンク色の髪が派手で、同時に酷く可愛らしいと思った。
「雅!」
名前を呼べば、雅リアがこちらに顔向ける。
なつめと目が合うと同時に嬉しそうに微笑んでいて、その笑みが可愛いと思ってしまう。
「どしたん」
「……お礼、言ってなかったから…ありがとう。体育着とジャージ貸してくれて」
また貸しが出来てしまったが、弱みを握られたとは思わないのは、雅リアが本当はどんな人間か知り始めているから。
知れば知るほど、雅リアが魅力的に見えてしまうのだ。
「じゃあ、付き合って」
「は…?」
「行こう」
「ちょっと…どこ行くの?」
慌てるなつめを見て、またリアは楽しそうに笑うのだ。
もしかしたらこの子は人が驚く顔を見るのが好きなのかも知れない。
最初はそんな彼女が苦手だったのに、今は引っ張ってくる手を解けずにいる。
つい先月まで、なつめはずっと一人だった。
王子様と崇拝されて誰も近寄ってこないひとりぼっちの高校生活が、彼女が現れたことで一変したのだ。
まるで満開の桜のような彼女は、なつめの世界をあっという間に色付けてしまった。
「早く行こ!」
手を振り払わないのも、必死に後をついて行ってしまうのも、彼女といると少しだけ楽しいから。
騒がしくなった今の世界を、ゆっくりと好きになり始めているのかもしれない。
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