第66話 体育祭③阿部先生

 事前に有希から受け取ったプログラムのコピーを見る。

 あまり他の学校と大差ない内容だが、女子校なのに棒倒しとかあるんだな。

 

 有希の話によると、以前騎馬戦もあったが、怪我人が出たので取り止めになったとか…。

 男子がいないと女の子は男子の目を気にする必要が無くなるので、活発になるらしい。


 有希は3年A組で、白団だ。 

 だから白いシュシュなのかもしれない。

 他はB組が赤団、C組が青団、D組が黄団、E組が緑団、F組が紫団、G組が桃団で、各学年の同じアルファベットの組で団を結成し、何処が優勝するか決める様だ。

 

 有希の参加する種目は、午前が100メートル走と大玉ころがし、午後は借り物競走とリレーだ。

 結構参加するんだな、有希は足が速いのかもしれない。

 

 まず有希がいる3年A組の座る場所を確認して、姿が確認出来たら撮影しよう。

 居るかな…白いシュシュ…

 居た居た。

 誰かと喋ってるな、新しいクラスになって友達が出来たのかもしれない。

 良かったな、有希。

 

 さて、後ろ姿を撮影しようかな、と。

 スマホを出して撮影しようとしたところ、背後から急に声を掛けられた。

 

 「すみません、父兄の方ですか?

 撮影許可証を拝見出来ますでしょうか。

 …あっ、貴方は…遠山さんではありませんか?」

 

 そこには学生とは違う水色のジャージを着た、年齢は俺と同じくらい、長い髪を後ろで束ね、眼鏡を掛けた巨乳きょぬーの和風美人がいた。

 で…デケェ…あっ、イカンイカン、目線を外さなければ。


 しかし、この学校で俺の名前を知っているのは、理事長くらいしかいないハズだが…誰だ?

 

 「そうですが…どちら様でしょうか?」


 「初めまして、私は片山有希さんのクラスの副担任をしています、阿部翔子あべしょうこと申します。」

 

 「あっ…どうも、有希の親戚の、遠山です。

 …あの、何故私の名前を?」


 「実は、以前に土曜出勤をして事務仕事を職員室でしておりましたら、片山さんと遠山さんが校長室にいらっしゃって、大きな声で会話していたのを聞いてしまいまして…

 その…すみません。」


 「あぁー、あの時にいらっしゃったんですね、ナルホド。

 お仕事中に怒鳴ってご迷惑をお掛けして、本当にスミマセンでした。」


 「いいえ、私はあの時、貴方の言葉に感銘を受けました。 

 私は遠山さんを尊敬しています。」


 「えっ…?

 私は何か先生が感銘を受ける様な事を言ってましたか?」


 「えぇ、『どうして被害者である彼女の事を、1番に考えてやらないんだ!』と…。

 私ならイジメた生徒の事も考えてしまったと思います、どうにか穏便に収まらないか、と。 

 私はあの時、違うクラスの副担任をしていましたので、片山さんが自殺を考える程追い詰められていたとは知りませんでした。

 私は誰もが納得のいく結末しか考えていなかった。

 片山さんが死んでしまっていたら、遠山さんもご家族も、納得出来る訳が無いですよね…

 そんな事を考えていたら、イジメを解決出来る訳が無い…

 それを思い知りました。」


 「…私は有希の事情を知っていたからああいう対応が出来たのであって、先生の立場ならそれは仕方ないのかもしれません。

 ですが、一言言わせてもらえるのならば、

 イジメは理不尽で、卑怯…!

 あれは、犯罪です。

 高校は犯罪を穏便に収める所では無いと私は信じたい。

 私はイジメをする人間は、絶対に許せない。

 ただ、それだけです。」


 「御尤ごもっとも…

 返す言葉もございません…。 

 私は片山さんのクラスを受け持っていますので、もし今後何かありましたら御報告させていただきます。

 逆に遠山さんから私に何かあれば、コチラに連絡をいただければ…。」


 阿部先生はSNSの連絡先の書いたメモを、顔を赤くしながら恥ずかしそうに俺に渡して立ち去った。

 

 ヤベえ、俺が胸を見てたのがバレたのかな…本当に気を付けないとセクハラで訴えられちゃう。


 有希が学校にいる間の情報が手に入るのか…

 これは無下に出来ないな。

 有希が卒業するまではスマホに登録しておこう。


 って、ハッ…!

 有希が、コチラを見ている…

 

 何か、怒ってらっしゃる?

 

 あっ、そうだ!

 有希を撮影しておこうっと。

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