第7話 片山家①

 …あれ…結構なおウチですこと…

 平屋だけどかなり大きいし、車ごと入れるしっかりした門扉もあるし、何か庭も凄そう…。


 とりあえずインターホンを…と思ったら、


 ゴゴゴゴゴ…と門が開いた、自動か。


 インターホンから、


『いらっしゃい、どうぞ入って。』


 …という彼女の声が聞こえたので、車ごと敷地内に入った。


 重厚そうな玄関から、艷やかで長い黒髪は纏めず白系統のダボッとしたパーカーとデニムのショートパンツを穿いた、爽やかな笑顔をコチラに向ける正統派美少女が出て来た。

 

 相変わらず綺麗だな…

 大涌谷の暗がりで見るのとは違い、更に美しさが際立っている。

 ダボッとしたパーカーを着ているのにも関わらず主張している胸、ショートパンツから覗いている長くて張りのある脚……イカンイカン、女性は視線に敏感らしいからな、あまり見てはいけない。


 「そのウルサい車、来たらすぐ判るね。」


 「あー、すまないねぇ…

 帰ろうか?」


 「今来たのに!?」


 「イヤ、お婆さんがコワ…

 何でもない、お邪魔します。」


 玄関に入ると、白髪で髪をお団子にしている小柄だが足腰はシッカリしてそうな、茶色の作務衣さむいを着たお婆さんが俺を出迎えてくれた。


 「いらっしゃい、初めまして。

 ワシが有希の祖母の信子じゃ。

 よろしくのう、遠山の。」


 うわー、のじゃ婆さんキター!

 しかも既に名前を把握されてるー!

 …免許証は確認済という事か…  

 

 …これは…逃げられん…!


 「初めまして、遠山真之と申します、何かご用件があるとお伺いしましたが…。」


 「まぁまぁ、中に入っておくれ、有希、食事の用意をしておくれ。」


 「はーい。」


  俺はリビングにあるソファーを勧められたので、お婆さんが対面に座るのを待って、腰を掛けた。


 「まず、お礼を言わせてほしい、孫を助けてくれて、本当にありがとう。」


 そう言って暫く頭を下げていたので、


 「頭をお上げください、お気になさらず。

 当然の事をしたまでです。」


 そう俺が返すとお婆さんは頭を上げ、


 「近頃、何かよく考え事をしているなと思ってはおったんじゃが、まさか夜中に大涌谷に行くとは…

 ワシが独りであの子を見てるからのぅ…

 あの子の家族がこの家にワシしかいない理由は本人からは聞いておるかぇ?」 


 「いいえ、イジメの事しか。」


 「そうか、ではワシから話すのは止めておこう、あの子の家庭環境は複雑でな、両親は生きてはおるが…

 死にたくなった理由は恐らくイジメ以外にその事もあったんじゃろ…

 話す気があれば、本人から話すじゃろうて…。」


 まぁ家にお婆さんしかいないと聞いた時点で何かあるのかなとは思ったが、イジメの話が主体だと思い、詳しくは聞かなかった。

 言いたくない事だってあるだろうしな。

 

 「ところでおぬし、警察官じゃと?

 所属、階級は?部署は?

 何をしておる?」


 「警視庁淀橋警察署の巡査長で、地域課、交番勤務です。」


 「それにしては生活安全課でもないのに随分とイジメの対処法を詳しく孫に伝えて来たな。」


 「生活安全課なんてよく御存知ですね、少年係や生活相談係が生活安全課にありますが、私も家庭で色々ありまして、内勤にはなれませんでした。

 あー、両親が病気で2人とも死にましてね…。

 生前は介護とかがあって、内勤だと休みがなかなか取れませんし、地域課と違って人数が少ないから急に休んだりとかも出来ませんしね…

 それに私も過去にイジメを受けていまして…

 今後の役に立つかと少し勉強しました。」


 「そうか、苦労したな…

 するとやはり…

 有希との出逢いは偶然ではなく必然か…

 お主、他に家族は?」


 「独りです。」


 「…そうか、誠にスマンが孫のためにお主の力を貸して貰えんじゃろうか、孫のイジメの状況は知っておるじゃろうが、ワシの周りには弁護士や司法書士はおらん、雇おうと思っても結構な金が必要になる。

 それにお主は色々法律を知っておる様じゃし、ワシらと一緒に学校に行ってイジメの訴出に立ち会って貰えんじゃろうか。 

 既に孫から学校の先生には話をしたそうなんじゃが、何だか話をはぐらかされている様でのぅ。」


 「…失礼ですが、この平屋建てのお宅を拝見するに、お婆様がお金に困っている様には思えません、裁判沙汰にならなければ弁護士等を雇うお金は恐らく数十万で収まるかと。

 それに、私の様な多少法律を知った様な者が居ても、もし学校側に専門家がいた場合は太刀打ち出来ません、お考え直しください。」


 「金なんぞこの家を建てるのに爺さんの遺産を殆ど使ってしまったわ、後はもう孫の学費とワシの葬式代位しかない。

 それにワシは老い先短い、じゃから少しでも金は有希に遺してやりたい、どうか、どうかワシらを助けてくだされ。」


 「しかし…」


 「なんじゃ、ケチ。

 …お主、モテないじゃろ。」


 グッサァー!

 

 矢じゃなくて槍が飛んで来たぞ、心臓に突き刺さった…

 クッソこのババァ…!

 とんでもねーな…言ってる事は間違ってないだろうが、俺の法律知識や話術の力量が足りなければ、お孫ちゃんは窮地に立たされるんだぞ、そこんトコ解ってんのかババァ…!


 余談だが俺は心の中で、良い婆さんはおばあ、悪い婆さんはババァと言う事にしている。


 「それに元々お主が孫に言ったんじゃろぅ、男手はあった方がいいと。男だったら責任を取らんかい!

 …そうじゃのう、じゃったら、もしうちの孫がお主に惚れる事があれば、ワシがお主との仲を取り持ってやろうぞ、お主との仲を認めてやる!

 どうだそれで!」


 「是非お供にお加えください、お婆様。」


 「言ったな、お主。

 もし孫が惚れたらの話じゃぞ、惚れたらのぅ。

 …有り得んじゃろうがな…ボソッ…」


 ババァ…本音が丸聞こえだよ!

 確かに有り得ん…

 

 「くっ…殺せっ…!」


 「あっはっはっ、お主、オモロイのぉー。

 ワシはお主が気に入ったぞ、お主も孫同然の年齢じゃし、敬語もいらん。

 酒は飲めるクチか?

 今夜は飲むぞ!

 風呂も温泉を引っ張って来ててな、掛け流しじゃぞ、掛け流し!

 今日は泊まってけ!

 明日は決戦じゃぞー!

 お主が何度も東京から来るのは大変だろうと思ってな、既に学校側には明日行くと伝えてあるんじゃ。」


 「…エッ…?

 はぁーーーッ!?

 明日っ!?」

 

 …だから背広着て来いってSNSに書いてあったのか、てっきりババァの挨拶には背広じゃないと駄目なのかとばかり…

 ヤラれた…

 そういえば次の日は休みか?って質問もあったな…


 こんのクソババァ、とんでもねぇ策士だ、俺なんか居なくても大丈夫だろうよ、多分…


 ババァは俺を先導して、彼女が食事を用意しているダイニングキッチンへ移動した。


 

 


 

 

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