第5話 相談②
「…そろそろ聞いてもいいかな、君の事。」
俺はそう切り出すと、ひと通り笑い終えた彼女は真面目な表情で、
「…私は女子校に通ってるんですが、去年の秋に学園祭があって…
友達ではないんですが、同じクラスの女の子の彼氏さんが学園祭に来た時に私を見かけたらしくて…その…
私の事が気に入ってしまったらしく、そのクラスの女の子に、私の事を紹介してくれって言ったらしいんです。
それでその女の子が紹介したくないって彼氏さんに言ったらケンカになったらしくて、別れ話になった、私のせいだ、と…
それで、同じクラスの数人の女の子が…
私の上履きを捨てたり、ノートや机に悪口を書いたり、トイレで取り囲んで…殴ったり、蹴ったり…
皆で無視をしたり、目の前やSNSで悪口を言われたり…
友達も皆離れていって、クラスで孤立して…
学校に行きたくないけど、お婆ちゃん…
私、お婆ちゃんに心配かけたくなくて…
でも学校にも行きたくなくて…
悩んでたら何だかもう疲れちゃって…
何も考えたくなくなって…
死ねば楽になれるかなと…
でも死ぬ勇気もなくて…
とりあえず大涌谷に行けば死んだりするのかな…なんて思ったりして…
…今日…ここに来ました…。」
「…ビックリした、何で泣いてるんですか…。」
俺は泣いていた。
昔から涙脆かった。
イジメられて子供の頃は泣いていたが、大人になってからも泣ける話や、テレビや映画等で感動したりしても泣いてしまう。
電車の中で小説を読んでいて涙ぐんだり、物凄く悲しい歌をイヤホンで聴いた時、号泣して車内で他の客がドン引きしていた事もある程涙脆い。
こんな話を聞いて、泣かないハズはない。
「辛かったな、よく頑張った…
でも、もう我慢しなくていいよ、君が辛い思いをする必要はない、悪いのは全部そいつ等だ。
死ぬ気があれば、何でも出来る。
…まず、君はどうしたい?
相手を警察に訴えて刑事事件として処罰を希望するとか、民事訴訟を起こして慰謝料を請求するとか、学校を退学させたいとか、停学で充分とか、違うクラスに移りたいとか、相手を違うクラスに移動させたいとか…」
「えっ、ちょっと待ってください、情報量が多くて…
たった今泣いていた人とは思えない…」
「気にするトコそこ!?」
「…うーん…出来たらあまり大事にしたくないというか、警察沙汰とか退学までは考えてないけど、今のクラスとは違うクラスに移りたいかな…
同じクラスに残っても人間関係がうまく行くとは思えないし…」
「…優しいんだな…
そうだね、刑事事件となって有罪判決が出れば…出なくても停学か退学だろうし、遺恨が残るから逆恨みされても嫌だしね。
1番いい解決方法を考えようか。」
俺は彼女に、スマホのメモ機能を使って今から言う指示をメモさせた。
まず、証拠を残す事。
ボイスレコーダーやスマホを使って、暴行やイジメっ子との会話、暴言のやり取りを出来る限り録音・録画する。
相手に同意の無い録音・録画はイジメの証拠として提出するならば違法性は問われない、つまり相手に同意は必要ない。
カメラを仕掛けた場所に呼び出して、手を出して来たら証拠に出来るし。
暴行を受けたら病院に行って診断書を取る事。これも証拠になる。
上履きを捨てられたら捨てられたゴミ箱や上履きを写真撮影する、机に書かれた文字を写真撮影する、ノートに書かれた文字を保存する。
これは後で裁判の資料として残しておいたり、犯人を特定する段階で筆跡鑑定が出来る。
あと、その日あったイジメに関する出来事等を時間、場所を含めて詳細に記録しておく。
ある程度、言い逃れが出来ない程証拠が揃ったら、お婆ちゃんと先生にちゃんと話す。
お婆ちゃんは勿論味方をしてくれるとして、他にもお婆ちゃんの知り合いに弁護士とか司法書士が居る場合があるから、頼れる男の人に仲間になって貰う。
これは学校の先生方や、イジメっ子の両親に対応する時に男がいると舐められないし、弁護士や司法書士の場合は全て任せられるので、1番助かる。
それと、学校の先生に言う時も注意だ、イジメは勘違いだ、等と握り潰される場合もあるので、必ず会話を録音やメモを取っておく。
学校には法律上、安全配慮義務があり、イジメを放置したり改善策を練らなかった場合は責任が問われる。
校長先生にも立ち会って貰う事。
校長先生も握り潰すつもりなら教育委員会に訴える事も伝える事。
証拠は提出した場合、処分・隠蔽されても困らない様に複数用意する事。
イジメっ子やその両親に内容証明という書類を送り、郵便局から配達証明書を受け取る事。
これで、そんな書類は届かなかった、とは言わせない。
証拠や事実を突きつけ、イジメっ子サイドから念書等の書類を書かす事、内容はイジメの詳細な内容や、それについて反省し、謝罪している事、今後一切やらない事、近寄らない事。
もし破ったら過去の行為を刑事事件として訴えたり、民事訴訟を起こしたり、教育委員会にも報告する事。
最後に、学校に対する責任を追及し、クラス替えを学校に認めさせる事。
「必ず成功するとは約束出来ないけど、1番大事なのは、証拠。
これだけは無いと何も始まらない。
これが、君が幸せになるためのクリアするべき項目だけど…大丈夫かな?」
「……やるしか無いんだよね……
うん……頑張ってみる…
みます。」
「あー、無理に敬語使わなくていいよ、普段あんまり使わないだろ?」
「うん、ありがとう。
普段は先生とかにしか使わないかも。」
「何度も言うけど、死ぬ気があれば何でも出来る!
お婆ちゃんには迷惑掛けちゃうかもしれないけど、君が死ぬ方が、きっと悲しむよ。
ちょっと証拠を確保するまでは辛いと思うけど、それまでの辛抱だから…頑張れ…。」
「そうだね、イジメの事ばっかり頭にあって、お婆ちゃんの事あんまり考えられなかった…
あの、話をしてくれて…聞いてくれて、ありがとうございました。
最初は襲われるんじゃないかと怖かったけど。」
「あー、そうだよねー、1番心配するところはソコだよねー、顔も怖くてゴメンねー!」
「フフッ…男は顔じゃないですよっ。」
「いやソレってホントは男は顔だって思ってるよね、最初に会った時顔見て怖いって言ってたよね、あの時点で普通もう会話も強制終了だよね!」
彼女は俺の様子を見て軽く引いていたし、夜中だからもう家に帰した方がいい。
「あー、別に俺は怒ってないからな?顔は怖いけど。
帰りは自転車大丈夫か?
夜中だし、途中まで車のライトで道を照らしてやるよ。
家の近くの安全な場所まで行ったら手を振ってくれれば離脱するから。」
「うん、ありがとう。
近くまでよろしくね。」
そして途中まで自転車の後ろからヘッドライトで道を照らし送って行ったら笑顔で手を振って来たので、俺はパッシングとホーンを鳴らして東京の多摩市にある自宅へ向け車を走らせた。
うん、やっぱりあの子には泣き顔は似合わない。
俺はあの子の笑顔を守れたのかな…
あの子の…アレ…
…どなたさんでしたっけ…?
あー、今更だけど名前すら聞いてねーな、ドコのダレちゃんだよ!
…まぁいいか、2度と会わないかもだし。
…しかし、俺の免許証の写真とか消してもらって無いな…
ちゃんと消してくれるかな…
明日上司に呼び出されたりしないよね…?
あの子SNSとかに
『大涌谷の地を這う謎の顔面凶器男現る!』
とかタイトル付けて俺の免許証を晒したりはしないよな…うん怖い。
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