第4話うるさいなぁ
「はぁ…あっ…うっ…はぁ…﹏﹏﹏﹏﹏っっっ!」
これまで感じたことも無い絶望と悲しみに打ちひしがれ、涙と嗚咽が漏れる。
息が出来ない程の嗚咽、鳴り止まない心臓の鼓動が鼓膜を震わす─────そんな中。
「うるさいなぁ…」
ふと、頭の上あたりから聞こえてきたのは、聞いたことがない…鈴の音の様な声、けれどそれは、どこか懐かしい感じがして…。
俺はその声の主を求めるように、本当は【そうなんじゃないか】と、わずかな希望を抱きながら。
声の聞こえてくる方に目線を向けた。
「────…?」
すると、そこには。
月明かりに淡く照らされ光沢を発している黒髪を靡かせ、ルビーの様な紅い瞳でこちらを見つめているーー1人の少女が居た。
「…」
少女は尚も、半壊状態の屋根の上からそれを見つめる俺を、動揺も、驚きも、果ては感情さえも捨てた様な表情で見つめていた。
否ーー見つめ合っていた。
そう、俺も同じく少女の事を見つめていたのだ。
だがそれは、少女が俺に向けるそれとは真反対のーー驚き、ただその一言が合う表情で。
その理由は、もちろん────
「どうしたの?幽霊でも見たみたいな顔して」
一重に、その少女の顔がーー和葉に似ていたからであった。
「和葉…」
「ん…?」
少女は俺のつぶやきに、肯定も否定もせず、小さく幼い顎に人差し指を当て、小首を傾げながらそう言った。
…美しく艶(なまめ)かしい艶のある黒髪、ふっくらとした頬には程よく赤みが刺し、長く細い睫毛を携えている。
決してーー数時間前の和葉と一緒だったなら、あの屋根の上で髪を靡かせている少女を見ても、和葉だとは思わなかっただろう。
…でも。
でも、この極限状態で目の前に現れた少女は、どう見ても和葉に似ていて、幻覚を見ているのかと勘違いする程で。
「和葉…っ」
俺は思わず、少女に向けてその名を、震える声で再度口にした。
「…?和葉って言うのは君が今、抱きしめている腕の事かな?」
少女は、ただただ疑問に思った様に、デリカシーも何も無いような口振りで、そう俺に言った。
「人の趣味をどうこう言うつもりは無いけど、死んだ人の腕を抱きしめるのはどうかと思うけどな」
それともその行為はそんなに楽しいの?と、少女は言う。
楽しい?楽しいはずが無いだろ。
絶望だ、絶望の真っ只中だ。それを楽しいだと?どこをどう見たらそうなるんだ。
そこはかとなく、和葉が死んだ事に対しての八つ当たりのように、俺はデリカシーの無さすぎる少女を睨みつける。
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