第2話琴 リク

「いただきます!」


 はむっ


 和葉は小さく幼い手に収まりきらない程大きなメロンパンを両手で掴み、それを幸せそうに頬張った。

 俺は和葉が口元に可愛く付けたメロンパンのクッキー生地の部分をティッシュで払いながら。


「ゆっくり食えよ」


 言うと和葉は、


「うん!」


 そう言ってまた、天使のような笑みを浮かべるのだった。


「ふ…」


 和葉の言葉とは真逆の行動に、思わず口元が綻ぶ。

 家はコンビニのメロンパンでさえも高級品という扱いなのに、和葉の笑顔を見ると、なんだか俺にはこの生活が勿体ない位に思えてくるのだ。


 これもシスコンと言うのだろうか。


 そんな事を考えていると、またもや。


 ゴゴゴゴゴ…


 地鳴りの様な音と共に、家が軋む音がこだまする。

 なんだろう、地震だろうか。

 一瞬避難しようかとも思ったが、何よりサイレンやら緊急の放送やらは聞こえて来ないので、とりあえず止める。

 こういう時こそテレビがあったら良かったのだが、親の死亡保険金だけでは暮らしていけない為、テレビなどの家電類は必要最低限の物以外売ってしまったのだ。

 今思うと、テレビまでは行かなくともラジオ位は残しておけばよかったと思う。


「…」


 と、そんな考えでいっぱいになっていた俺は、お腹いっぱいになり寝ている和葉に気づかず。


 すぅーすぅー


 和葉は先程までメロンパンを食べていた位置とは反対側のーー俺の膝に頭を乗せ、すやすやと気持ちよさそうに寝ていた。


「はは…いつの間に移動したんだ?」


 俺はそう呟きながら、和葉をお姫様抱っこして布団まで運ぶ。

 頭を枕の位置に持っていき、掛け布団をかける。

 ふと、メロンパンの袋を片付けようとその場を立とうとしたら、服の裾がキュッと小さい力で掴まれた。


「なんだ、起きてたのか」


 しかしやはり眠いのか、だんだん重たくなる瞼を必死に保ちながら。

 和葉は横にいる俺に向かって、


「お兄ちゃん…本読んで…」


 と言った。


「あぁ、いいぞ」


 俺はちょっと待っててと言い残し、早々に和葉の好きな童謡の本を持ってきて、和葉の横に座る。


「昔昔あるところに…ーーー」


 ーーサラッ


「いつ見ても可愛いな…お前の寝顔は」


 すやすやと、今度こそ眠りに着いた和葉の可愛い寝顔を見ながら、黒髪の綺麗な前髪を掻き分けて。

 パタンと本を閉じ、明日のもろもろの準備をする為にその場を立とうとした、…その時。


「…!なんだ、まだ寝てなかったのか」


 またまた和葉が俺の服の裾を掴んで離さない。

 俺はもう一度読むか?と言って、立ちかけた所を座り直す。


「お兄ちゃん…」


「ん?」


「…」

「…」

「…」

「…?」


 何故かそこで、和葉は黙り込んで。


 ヒュュュュュュュュ……ーー


「だーー」


 ドーーーーーーーーーーーン!!!!


 瞬間、風を斬る音ーー目の前に何か落ちたかと思うと、ものすごい衝撃と共に家が破裂した。


「ゔぅ……」


 俺は衝撃波で飛ばされた為か意識が朦朧となる。

 クソ…痛ってぇ…

 俺は尚も朦朧とする意識の中で彷徨う。

 あぁ…くらくらする…


 …何があったのだろうか。

 一瞬。和葉が喋ろうとした時、何かが風を斬る様な音が聞こえてきて…それで…。


「はぁ…はぁ…ゴホッゴホッ」


 だんだん鮮明になってきた視界も、立ち上る砂埃によって意味をなさない。


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