レッドアイツー

四方川 かなめ

第1章

第1話 大切な物の為に


「ねぇお兄ちゃん、こんなに買ってお金大丈夫なの?」


 妹の和葉かずはが、大好物のコンビニメロンパンを抱きしめながら言った。


「大丈夫大丈夫。和葉は金の事なんて気にすんな」


 そう言って俺は、和葉の綺麗な髪を撫でる。

 すると和葉は、メロンパンなんかよりも嬉しそうに上目遣いで俺に微笑みかけた。

 …俺の家は、貧乏だ。

 母親は和葉を産んだ後病気で他界し、父親はその反動からか、俺に手紙を書いて自ら命を経った。

 その手紙には、「リク、お前は俺には勿体ないくらいに出来た子だ。だから和葉の事を頼んだぞ」と、涙で滲んだ文字で書いてあった。


 …ふざけるなと思った。


 なんで……なんでそんな事言っておいて、自分から命をたったのかーー幼い和葉を残して。

 本当に、ふざけるなと思った。


 ーー「ねぇお兄ちゃん、今日はとっても贅沢な夕食だね!」


 和葉が天使のような笑みを浮かべ、先程買ったメロンパンを大事そうに抱きしめながら言った。

 メロンパンなんていつぶりだろうか。

 思えば父親が死んでから俺は、1度も食べていなかったと思う。

 まぁ────────


「だな。和葉、それは和葉のものだから、遠慮せずに食べていいからな」


 俺はそれでもーーメロンパンなんかよりも、この天使のような笑みの方が好きなのだが。


「本当に良いの…?」


「もちろん」


 父親を亡くして家が貧乏になってから、和葉は少し贅沢なものを食べようとするといつも、この様に聞いてくる。

 贅沢なんていい。俺は和葉が居ればーー食べ物なんてなんでも良いのだ。


「ありがとう、お兄ちゃん!」


 そう言って和葉は、嬉しそうに鼻を鳴らす。


 ゴゴゴゴゴ


 ふと、地面が揺れた気がした。


「?」


 不思議に思い俺は、隣をてくてくと嬉しそうに歩いている和葉に視線を送るが、和葉はなんとも無いようで。


 そりゃそうか


 こんなコンクリートで覆われた地面が揺れる訳が無い。

 もしそうだとしても、近くに電車でも通っただけであろう。

 そう思うと俺は、そのまま考えるのを止める。

 和葉がこんなに嬉しそうなのに、和葉以外の事を考えるなんて勿体ない。

 こういうのを世間ではシスコンと言うのだろうか。

 俺がそんな事を思い、結局なんか色々と考えていると。


「お兄ちゃん、鍵は?」


 いつの間にか家に着いていた様だ。

 俺は1度和葉の手から自分の手を離し、鍵を取り出すためズボンのポケットにそれを突っ込んだ。

 すると生地の薄い安物ズボンだからか、程よく生ぬるくなった飾りのない鍵が当たる。


「ちゃんと手を洗ってから食えよ、和葉」


「うん!」


 言いながら俺は、鍵穴に刺さっている鍵を回し扉を開けた。


 ドタドタドタ…


 待ってましたと言わんばかりに和葉は、ポイポイと靴を脱ぎ、手早く洗面所に走っていく。









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