第14話:ゴーストリアの三因子08
『じゃあ死者の記録って……』
『色々言われていますよ。全知全能の神の温情だとかアカシックレコードの一部だとか。ゴーストリア自身は、デッドマンスクロールと呼んでいましたっけ』
「デッドマンスクロール……か」
死者を羅列した記録媒体。データとして保存される故人。
『それが第一因子』
『ええ』
端的に三代は答えた。
『次いで第二因子になるんですけど』
『生者の記憶を再現するモノ?』
『ですね』
『第一因子とは違うの?』
『こちらはむしろ観念的な理屈に為りますね』
『えーと?』
二葉の不理解がこの際の三代の論じ方を促す。
『例えば誰も知らない無名不明の人物をゴーストとして……誰にも見られずふよふよ現世を漂うソレが客観的にどういった意味を持つでしょう?』
『それは確かに』
四季は即座に理解してのけた。零那としても聞くに十分な言葉だ。
『つまり死者側の記録と、生者側の記憶と、双方が噛み合ってゴーストが為る……と』
『そういうことです』
即座にコメントが返ってきた。
『死者の記録が魂と呼べ、生者の記憶で魂に肉付けをする。この場合は零那と一子の記憶と記録の相互作用ですね』
『何だかなぁ』
コメントに困る零那であった。
『第三因子は?』
『意図糸です』
『いといと?』
『定義の復唱』
『三つ、ゴーストは対象の想念を再現するモノ』
『です』
『想念……っていえば』
『例えば植物の幽霊って想像出来ると思いますか?』
『難しいなぁ』
『では虫の幽霊は? 細菌の幽霊は? ウィルスの幽霊は?』
『待て。ウィルスは生命じゃない』
『ですね』
意外とすんなり三代は認める。
『では生命と物質の境界線は何処にあります?』
『難しい質問だな』
『その点を鑑みて、何故幽霊は人の形ばかり取るのでしょう?』
『あ』
そういうことだった。
本当に死んだ生物が幽霊として復元できるなら地球環境はもう少し住みにくくなっているのが道理だ。ペストの幽霊なんぞが再現出来るならば、死の天使はある意味でバイオセーフティレベルが限界突破だろう。
「何故人だけが幽霊となるのか?」
その辺りを汲めば、
『人のエゴイズムを根幹にするからです』
との三代の言葉は実に正しい。大切だと思った者の再現。死者を記録し、生者の記憶を読み取り、その上でゴーストリアの第三因子……つまり、
『三つ、ゴーストは対象の想念を再現するモノ』
人の想いが幽霊を形作るわけだ。ただ意味も無く死者が幽霊として溢れれば、霊能者は何処までが人で何処までが幽霊かも分からなくなるだろう。死者に対する悔恨。生者に対する遺言。どちらの想念かは対象の彩によるが、ゴーストの本来の有り様は死者の再現であり、なおソレによって死者の思うところを生者が納得するための現象だ。
『そうでなければ幽霊が居る意味もないでしょう』
そんな三代のコメントだった。
『じゃあワンコは?』
『一子の未練か零那の未練か』
そういうことになる。
『どちらにせよ人形劇ですけどね』
『何で?』
これは二葉。
『哲学的ゾンビって知ってます?』
『無論』
『ですね』
『教えてエロい人』
『要するに自我を持っていないのに表面的には自我相応の反応をする反射活動を指すのですけど……』
『ますますわかんないんだけど』
『例えば二葉が家族で美術館に行くとします』
『ふむ』
『あなたは絵画を見て綺麗だと評して、家族もまた同じ絵画を綺麗だと感情を共有するものとして、その上で実はあなたの家族は精神的には虚無であり本当は何かしらの想いも持たずただ知識のプラグラムに従って反応を出力すれば、なんて仮説です』
『何ソレ怖い』
『ですからゾンビと言いました』
三代の嘆息が聞こえてきそうだ。
『とするとゴーストは基本的に哲学的ゾンビだと?』
『仮説の域は出ませんが』
『見分ける方法は?』
『あるならとっくに人類はAIを完全再現出来ています』
『ご尤も』
納得のいく御意見だった。
『要するに』
三代が纏めに入る。
『記録と記憶を想念でゴーストととし動かす。記録は人形で、記憶は見物客、そして想念が人形の操り糸というわけです』
『陰謀論に聞こえますね』
『あくまでゴーストリアの言葉を借りるなら……と注釈は必要でしょうね』
『三代としては?』
『MRIの検査を受けることをオススメします』
ちゃんちゃん。
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