1-5. タワマン購入

 それから三カ月、達也は法人を作り、毎日のように水から作った銀、すず、銅の金属塊を軽トラックに載せてあちこちの業者に売りに行った。一回当たり五百万円、すでに四億円の利益となっている。

 調子に乗った達也は、タワマンの最上階の部屋を買ってみる。川の向こうに毎日見ていた武蔵小杉のタワマン、一体どんな景色が見えるのだろうかと思っていたが、買ってしまえばいいのだ。お金にはもう困らないのだから。

 不動産屋は最初、学生が億ションを買おうとするのを怪訝そうに感じていたようだったが、預金通帳の残高を見せると途端に上機嫌になり、揉み手しながら書類を全部揃えてくれた。

 達也は家具と家電製品、日用品を全部ネットで注文してそろえて配置する。デカいソファにオシャレなカーテン。高級感ある間接照明に観葉植物を配して理想の秘密基地を作り上げた。こんな贅沢していいんだろうかとは思ったが、金はまだ何億円も残っているし、今後も増える一方である。心行くまで贅沢を満喫してやればいいのだ。

 上機嫌になった達也は近所のショッピングセンターでシャンパン、チーズやつまみを買ってきた。

 窓の外を見ると丁度日が暮れて夜景へと変わっていく。


「おぉ……」

 達也はその圧倒的な景観に思わず息をのんだ。多摩川の向こうに広がる東京の街並み。赤い東京タワーにスカイツリー、羽田空港からは次々と飛行機が飛び立っていく。

 まるで宝石箱をひっくり返したような街の煌めきにしばらく見入ってしまった。

 この世界が仮想現実だと気づいてから四カ月、ついに達也は夢の暮らしを手に入れたのだ。

 達也はシャンパンをポン! と、開け、グラスに注ぐと夜景に向けて掲げる。


「この、素晴らしき仮想現実空間に乾杯!」

 一口含むとシュワシュワとした炭酸の向こうにホワイトフラワーの香りが漂い、やがて野生のベリーのアロマが立ち上がってくる。

 この複雑な味わいが全て仮想現実空間上のデータだなんてとても信じられないが、理屈としては疑う余地はなかった。

 達也は酔った勢いで自分の体に対してコマンドを発行してみる。重力適用度というパラメーターがあったのでこれを0%にしてみたのだ。すると、ふんわりと身体が浮かび上がり、エアコンの風を受けてゆっくりと身体が回転していく。まるで宇宙ステーションのように無重力になってしまったのだ。

 うはぁ!

 達也はうれしくなって壁を蹴り、天井を蹴り、くるくると回りながら部屋の中で無重力を堪能する。

「そう! これだよこれ! ヒャッハー!」

 達也は絶好調だった。仮想現実空間を操れる、それはまさに神の力である。

 この後、自分の体に速度を与えて空を飛んだり、座標を書き換えてワープをしたりしながら夜遅くまで新たな世界を堪能していった。


           ◇


 達也はしばらく世界のあちこちへワープし、観光しながら世界を飛び回る。ロンドン、パリ、ピラミッドにマチュピチュにイースター島、行きたかったところ全てに行ってみる。それは夢のような時間だった。

 モアイ像の並ぶ草原に寝転がりながら、達也は太平洋に沈んでいく夕陽を眺める。人類が数千年かけて築いてきた文化と文明の営みを堪能した達也は、一体神は何がしたいのか、人類に何を求めているのかつらつらと考えていた。


「もしかしたら、こうやって文化を愛でたかったのかもしれないな」

 達也は傍らの巨大なモアイ像を見上げ、その独創的な迫力に痺れ、思わず見ほれた。

 これをゼロから生み出すのは神様だって大変に違いない。だから人類を育てたのかもしれない。そう思いながら沈んでいく太陽が最後に緑色に輝く瞬間を眺めていた。


           ◇


 めぼしいところを回りつくした達也は、南太平洋のサンゴ礁でできた小島のビーチで寝転がるようになった。

 どこまでも澄みとおる青空に南国の雲、限りなく透明で青い海……、まさに天国である。

 達也はその小島にコテージを建て、時間がある時は真っ白のサンゴ礁のビーチで波の音を聞きながらリゾートライフを楽しむようになった。

 周囲数百キロ誰もいないのだ。何の気兼ねもなく酒を飲み、つまみを食べ、ゆるやかな時間を満喫する達也だった。

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