7話 お兄ちゃんの気持ちが知りたい…




 金曜日の夜、仕事を切り上げて自分の部屋に戻ってきた。もう夕食時間のピークも過ぎて、私のお手伝い時間は終わり。


 あとは両親より先にお風呂の用意をして先に休むことが私の夜の流れだった。


 階段を上がって、暗いままの部屋のドアを開けた。


「いけない。窓が開けっ放しだよ」


 電気を付けずに窓に近づいてふと気がつく。


「お兄ちゃんも開けっ放しだ……え?」


 お兄ちゃんが机に腰かけて、何かを見ている。


 私の部屋は真っ暗だから、あちらの部屋からは私が見ているなんて分からない。逆にお兄ちゃんの部屋は手に取るように分かってしまう。

 

「……くら……、大きくなったよな……。こんな美人になっちまって……」


 え? 私の名前を呼んでる? 


 気付いてしまった。


 手元にあるのはお兄ちゃんのスマホで、表示されているのは先日の写真だってこと……。


 あの時の写真って……。私も自分の顔が赤くなるのが分かった。


 私だってもう18歳だから、頭の中だって少女マンガみたいに純情じゃないって分かってる。


 恥ずかしい。でもお兄ちゃんなら許せるかなと思ってきた。


「桜……」


「お兄ちゃん……」


 私は気付かれないようにそっと窓を閉めた。


 お兄ちゃんが私の写真を見ながらつぶやいている。その頭の中で何を考えているかまでは分からないけれど。別に変なことじゃない。お兄ちゃんだって男の人だったら、好きな女の人のことを想うのは自由だもん。


 そこまで考えたとき、私はふと気付いてしまった。


 お兄ちゃん、私をどう思っているんだろう……。


 私だって、先日みたいにお兄ちゃんに抱かれることを思い出すだけでドキドキしてしまう。



 あの日、お兄ちゃんが私を探して抱き締めてくれた。


 私は私でいいんだって…。


 私が泣いているときには、いつもそうしてくれる。


 私はその時を思い出しながら、そっと胸に手を当てる。いつの間か、お兄ちゃんにギュッと抱き締められると、私の胸の膨らみがお兄ちゃんに当たることに気づいた。


 私の中で、これまでに意識してなかった気持ちが上がってくる。


「お兄ちゃんは特別なのかも…」


 クラスやこれまでの経験にないくらい、胸の中にザワザワが流れる。


 友達の恋の経験とか聞いたこともあるけど、私にはこれまで一度もない。


 それに、まさかこんなきっかけでそのスイッチが入るなんて思いもしなかったし。


 お風呂でいつもよりシャンプーやコンディショナー、ボディソープを多く使いながら、気持ちごと洗い流してリセットしようと思った。


「ふぅ……」


 思わず小さな声が出てしまう。普段のお風呂は同じように洗っていても何てことないのに……。


「こんなのまだとってあったんだ……」


 お風呂場の収納からシャンプーを手に取ったときに、奥にあったそれを取り出した。


 お風呂場で使うおもちゃのアヒル。私がまだ小学生低学年の頃のものだ。


「懐かしいなぁ」


 あの頃は、お兄ちゃんと一緒に入っていた。背中も流し合いっこして、湯船も一緒だった。


 もちろん、お風呂だからお互い裸んぼ。それなのに、大きくなってプールとかでキャアキャア言い合っている友達ほど恥ずかしさはなかった気がする。


 でも、今なら……?


 思わず顔が赤くなる。


 確かに、あの頃に比べて、私もお兄ちゃんも大きくなった。身長は敵わないけど、もうあの当時のようなチビっこではなくなった。


 スポーツをしていたわけじゃない。家の手伝いは立ちっぱなしで、重いお盆を持つから、脚力も腕力もついた。太くなるかなと心配した腕も足も引き締まってくれた。


 あの当時はぺたんこだった胸も、自慢は出来ないけど、それなりには膨らんでくれた。


 でも、これでお兄ちゃんが満足してくれるかは分からないし。


 私は、先日からのお兄ちゃんとの事を思い出す。


『……その時は俺がもらってやる』


 あれは本当の事だったのかな。そんな台詞言われながら抱きしめられたら……。


 ねぇ、これってプロポーズじゃないの? 私が余りものになった場合かもしれないけど……。


 胸が急に苦しくなった。顔が赤いのも、お風呂のせいなのか、別なのかよく分からない。


「どうせなら、余り物になる前にもらってくれてもいいのに……」


 私はよろよろと階段を上がって、部屋に戻った。


「お兄ちゃん、いないんだ……」


 さっき電気が点いていた部屋は真っ暗。


 きっとあの時に顔を合わせたとしても、何も話せなかったに違いない。


「まぁいいかぁ」


 明日から旅行。荷物は準備してあるし……。


 体はずっしりと重いのに、お兄ちゃんとの明日からのことばかり考えてしまった私はなかなか寝付くことができなかった。

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