第38話 重荷
「
「改まって言われると、ちょっと構えてしまうね。それに
「執筆をやめた理由、もう一度聞かせてください」
「
「そうだね、そう言った」
穏やかに笑みを浮かべ、
「でも……この話は
その言葉に、
「
「僕たちも昨日ね、色々語り合ったんだ。そして当然、この話題にもなった。
今
「そうなの? 私が言ってること、また
「
「
「いいですよ、
「本当にいいのかい?」
「はい……確かに作家になるのが僕の夢です。断念する未来が来ると分かっていても、今の僕にはまだ諦められません。
ただ、未来の自分に会うなんて奇跡が起こって……きっとこれは僕にとっても、意味のあることなんだと思います。だから今ここで、
「分かった。じゃあ答えるね」
「
「どうしてそんなことを」
「言葉のままだよ。さっきも言った通り、僕には
そんな状態の僕が、中途半端な気持ちで執筆を続けたとしても、いい物が書けるとは思えない。何より僕は不器用だ。現実と夢、その両方を追いかけながらやっていけるとは思えなかった」
「あなたは夢を捨てる言い訳に、私を使ったのよ。分かってる?」
「言い訳なんかじゃない、本当の気持ちだった。僕は夢より、君と一緒に生きることを選んだんだ。あの時も感じてたけど、どうしてそんなに責められないといけないんだ」
「責めもするわよ。だってあなたにとって、作家になることは本当に大切な夢だったじゃない。簡単に捨てられるようなものじゃなかった筈よ」
「だから僕も悩んだ。このまま夢を追い続けたい、でも自分には才能がない。もし成功する未来に辿り着けるとしても、それは何年後、何十年後のことなんだろうって。
それまで
「間違ってるとは言ってない。でもね、だったらどうして、決断する前に相談してくれなかったの? あの時のあなた、私が何か言う余地を一切残してなかった。もう決定事項だった。そんなの酷すぎない? 小説家になる夢は、あなた一人の夢じゃないのよ? 私たち、二人の夢だったのよ?」
「……そういうのが、重くもあったんです」
「え」
「
「今の
でも時折、それを重荷に感じることもあったんです。
「私の言葉は……
「励みになってたのは本当だよ。ただ、僕の小説が好きだと言ってくれる君を見てるとね、嬉しい反面、焦りが出たのも事実なんだ」
「そんな……」
「発表の時、僕はいつも思ってた。駄目だったという気持ちよりも、また
「でもね、それでも僕は、
「……」
「
でもそんなつもりで言ったんじゃない。書き続けることで、
「……
「こんな僕の気持ち、知ってほしくなかったけど……でもごめん、そう思ってたのは本当だよ。
僕は書き始めたばかりだし、落選の回数だってしれている。でも
「だから僕は夢を諦めた。未練がないと言えば嘘になる。でも、それでも僕は、あの時の決断に後悔していない」
「……ごめん、
「謝るところじゃないと思うよ」
「そんなことない……私はあの時、自分という存在を都合よく使われた、そんな風にしか感じてなかった。今言われて気付いたわ。確かに私は、あなたにとんでもないプレッシャーをかけていたと思う」
「いや……まあ、多少はあったよ。でもね、そのおかげで書けたってのも本当なんだ。ただ、
「私は怒ってた。あなたの決断に……本当、馬鹿だ。さっきの
そうつぶやき、
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