第22話 大人になるということ
「
「
「うん。嘘はつかないよ。だから別れた」
「……」
「私を守る、大好きだと言ってくれたけど、触れてはくれなかった。そんな
「好きでいたいから別れた、そういうことですか」
「うん。距離を取ってる今、それが間違ってなかったと感じてる。おかげで今でも、私は
力なく笑う
「
「え? う、うん。そうだね、そう言った」
「
「……
「今の話を聞いて、そう感じました。
確かに
「……」
「都合のいい相手として見ていた、それは
「……言われてみれば、そうなるのかもね。何も言い返せないよ」
「人と人が付き合っていく。それは楽しいことばかりじゃない。辛いことの方が多いかもしれない。でも、それでも……そこから逃げていたら、何も得られないんじゃないですか? 時に言い合って、ボロボロになるまでぶつかって、泣いて、苦しんで……それが絆を深めていくんだと思います。
この世界に来て感じたことがあります。
「
「私は10年経って、そんな寂しい大人になってるんですか? 相手を失いたくない、だから嫌なところを見ないようにする、気付かないふりをする。言いたいことも言わず、今の関係を壊さない様にしていく。それが私の未来なんですか」
「だって辛いじゃない、嫌なところに気付くのは。
「だから距離を取った、そう言うんですか?」
「そうだよ。私は
大人になるって、どういうことなんだろう。
今の自分にはない価値観。
傷つくことを恐れて、自分にとって最も大切な物さえ手放す。
そうすることで、穏やかに生きていくことが出来る。
心を殺して、偽りの仮面をかぶって生きていく。
それが大人になるってことなの?
例えこの社会で生きていけない、そう言われたとしても。
子供じみた理想論だと言われても。
自分には受け入れられない。
私はこれからもずっと、
言いたいことも言い合って、幸せに向かっていきたいんだ。
「
「隠し事?」
「うん。私は
「そうだね。それが時々、僕の心を問答無用でへし折ってきたけど」
そう言って
「も、もぉーっ……茶化さないでよ」
「ははっ、ごめんごめん」
「私だって、言い過ぎたって反省することもあるんだからね」
「分かってるよ。
「……その笑顔は反則だって」
口をとがらせ、頬を染めてうつむく。
「それでどう? 隠してることとか、私に対して不満とかある?」
「……」
「少なくとも、この世界の私たちは隠し事だらけみたい」
「そうなんだ」
「二人共言いたいことも言わず、自分の中に閉じ込めたまま付き合ってきた。今の関係を守る為にね。でも馬鹿げてる。結局、それが原因で別れてるんだから」
「なるほどね」
「まあ、
「……中々に手厳しい」
「でもね、
「自分で言っちゃうんだ、それ」
「な、何よ。反省してるって言ったでしょ」
「いやいや、咎めてる訳じゃないから」
「私、10年でそんなことになってるんだ……そう思ったらね、何だか哀しくなっちゃったの」
「大人になるって、そういうことなのかもね」
「
「今の僕たちは、大人の庇護の元で生きている。勿論、僕たちのコミュニティにもルールはあるし、制限されてることだってある。でも、それでも大人に比べたら大したことないのかもしれない。
この社会で生きていくには、それだけ縛られることが多いのかもしれないね」
「……」
「理想だけじゃ生きていけない。何より大人になったら、自分の力で生きていかないといけないんだ。自分を殺すことだって、今の僕たちの比じゃないのかもしれない」
川面を見つめ、少し寂しげな目をした
この目。その少し陰りのある笑顔。
私を残して。
そう思い、胸が痛くなった。
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