レンとレンの恋物語
栗須帳(くりす・とばり)
第1話 ファーストキス
「私……キスしたんだ……」
夢の中にいるようで、頭がふわふわしていた。
――胸の鼓動がおさまらない。
泳いだ後の様に重い体。脱力感が半端ない。
それなのに足取りは軽やかで、そのまま宙に浮いてしまいそうな……不思議な感覚だった。
夏休み前、終業式の今日。
いつものように幼馴染の同級生、
子供の頃からずっと一緒だった二人。名前に「レン」が入っている二人は、互いのことを「レン」と呼び合い、その仲睦まじい姿は近所でも有名だった。
近所にある人気のない神社。
付き合い始めて半年になる二人は、学校帰りにいつもここに来ていた。
他愛もない日常の出来事や愚痴を話し、互いの気持ちを共有する。
とは言え、話すのはいつも
無口な
しかし今日。
いつもの様にオチのない話を続ける
「ちょっと
「う、うん、聞いてるよ」
「ほんとに? だったら京ちゃんが何したか言ってみてよ」
「……ごめん、分からない」
「ほらー。もう、どうしちゃったのよ。今日の
「そんなことは」
「ほんとに?」
そう言って
「もしかして熱あるの? 帰る?」
心配そうに
その時だった。
額に当てられた手を
「……
いつも物静かで穏やかな
ずっと想ってきた初恋の相手。
半年前、泣きそうな顔で告白してくれた、気弱でかわいい幼馴染。
しかし今の
こんな
ゆっくりと
夢にまで見た、
人気のないこの神社に来ていたのも、その為だった。
いつなんだろう。今日だろうか、明日だろうか。
ずっと思っていた。
しかし女の自分から言える訳がない。
こういうことは男からするものなんだ。そう思い、ずっと待っていた。
ついに、ついに
そして。
その瞬間、
待ち望んでいた瞬間。
それなのに心の中には、満足感と同時に「怖い」という気持ちが生まれていた。
歯がカチカチと音を立てる。
――初めての経験って、こんな感じなんだろうか。
しかしやがて、その感情は静かに消えていった。
「……」
頬に伝わる一筋の涙。
それは
ああ、私は幸せだ。
もう何もいらない。
私には
それだけでいい。
唇が静かに離れる。
その時初めて、自分が泣いていることに気付いた。
「あははっ……ごめんね、私ったら」
そう言って涙を拭う。
「……ご、ごめん……」
涙に動揺した
「え? あ、あははっ、何謝ってるのよ。そんなんじゃないから」
しかし
「きゃーっ!」
枕に顔を埋め、身をよじらせる。
体を振る度に、腰まである長い髪が揺れる。
あの時のことを思い返すと、体が燃えるように熱くなった。
足をばたつかせ、枕に顔を押し付け、何度も「きゃーっ、きゃーっ」と声を上げる。
「……」
しばらくしてようやく落ち着いた
「
明日から夏休み。
学校があれば毎日
しかし休みになると当然、会う機会は減ってしまう。
それは嫌だ。
毎日
私にはもう、
そうだ、毎日一緒に宿題をしよう。
そしてその後で遊びに行く。うん、これなら自然だ。
そんなことを考えていると、口元が緩んできた。
「ふっ……ふふふっ」
二人きりの部屋で勉強会。そして勉強が終わったら……
妄想が止めどなく広がり、
「え? 何の音?」
妄想が広がる
慌てて枕を置き、耳を澄ませる。
音は窓の方からしていた。
「……何の音? ここ、二階なんだけど……」
ゆっくりと立ち上がり、窓の方へと進む。
そして小さく息を吐くと、勢いよくカーテンを開けた。
「……え?」
窓の外にいたもの。
それは白い子猫だった。
「……子猫? どうして子猫がこんな所に……あ、ひょっとしてあなた」
そう言って窓を開けると、子猫はかわいい鳴き声をあげて部屋に入ってきた。
「やっぱり! あなただったのね」
頭を撫でると、子猫は嬉しそうにもう一度鳴いた。
「元気になったみたいだね。よかった」
「ありがとう、
「いいのよ別に。それよりこんな時間にどうしたの?」
「
「お礼だなんて、そんなのいいってば。気にしないでよ」
「そんな訳にはいかないよ。受けた恩はちゃんと返さないとね」
「恩って、ふふっ、おませな子猫ちゃんだね。困った時はお互い様で………………え?」
「どうしたの、
「……」
「
そして叫んだ。
「ええええええええっ? 猫が、猫が喋ってるうううううっ!」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます