「まがりなりにも私を誘拐犯から救ったのですから」……「何この変な音」……「王様も元気だよーーーー!」……「剣は何本あってもいいものだ」

 迎えの兵士に連れられて俺たちは王城に入った。兵士の先導についていくと、大きな部屋に通された。正面に王様の椅子がある。左右には廷臣や騎士たちが並んでいる。しばらく待つように言われた。


「王様に呼ばれるって何だろう? まだ何も悪いことしてないと思うけど」

「『まだ』ってこれから悪いことするつもりなのかお前」


 ケーシーがツッコんでくる。アリーテもそれに乗ってきた。


「悪いことしてたら謁見じゃなくて牢屋ですわ。まがりなりにも私を誘拐犯から救ったのですから、それに関することじゃないかと思いますけど」

「あー、そうか、アリーテ、隣国のお姫様だもんな」

「はい、我が物顔でのさばっておりますが、あくまでも隣国のお姫様なのです」

「ルミ、余計なこと言わない」


 ブザーーーーーーーー。


「何この変な音」


 俺が顔をしかめると、ケーシーがぽつりと言った。


「ブザーの音っぽいな」

「ブザーって何?」


 廷臣の一人が大きな声で口上を述べた。


「ご来賓の皆様、ならびに庶民ども、本日は謁見の間にお運び頂き、まことにありがとうございます。まもなく謁見の時間でございます。国王ハンス・バシュニバル・ティルト三世陛下が入場されます。臣下の礼をとって陛下の入場をお待ちくださいませ。まもなく開始いたします」

「俺、王様に会うのって初めてだな。え、えっけん? て言うの?」

「いや、これ、なんかちょっと普通の謁見と違う気がするッスけど」


 Q術師カザンが言うと同時にまた音が鳴った。


 ブザーーーーーーーー。


 二度目のブザー(って何だ? 楽器の名前?)の音がすると、周りの人たちがみな膝をついて臣下の礼をとった。俺たちもなんとなく真似をする。

 周囲が真っ暗になった。カーテンを閉めて窓をふさいだらしい。スポットライトがパッと王様の椅子を照らし出したかと思うと、今度は部屋の端の入口にスポットライトが集まった。バターン! と扉を開けて、元気よく王様がとび出してくる。


「やっほーーーー! みんな、元気ーーーーー? 王様も元気だよーーーー! 今日は、来てくれてありがとう! 顔上げていいよーー!」


 王様は中央の椅子の前までくると、上機嫌で椅子の前を行ったり来たりして話を続けた。


「今日はね、特別なお客として『紅蓮あかかねかけ男ケーシー』と愉快な仲間たちの皆も、来てくれてまーす! ありがとうね! 今日は、ロ=ミルア王国の第二王女、アリーテ様を守ってくれたお礼を言いたくて呼んだんだ。だってほら、お預かりしてるお嬢さんに万が一のことがあったら、いくらお詫びしても足りないもんね! ほんっと感謝してるよ!」


 王様は椅子の前でくるり、と回るとケーシーに向かって言った。


「それでね! お礼の言葉だけじゃちょっと薄っぺらいかなーって思って、特別なお礼を用意したんだ。聞いてくれるかな? いっくよー!」


 ドララララララララララララ……

 ドラムロールが鳴って場を盛り上げる。


「なんと! 『紅蓮あかかねかけ男ケーシー』と愉快な仲間たちに、ティルト王国の秘宝、救国の戦士にしか抜けないとされている伝説の魔法剣への挑戦権をさしあげまーす! おめでとう! 魔法剣を抜けたら君のものだよ! ただし、もしも抜けたらティルト王国を守って戦ってもらう! だって救国の戦士だもん」


 王様はにこやかにうんうん、と頷いた。


「で、誰かに案内をさせたいんだけど、そうだな、エヴァン! 謁見の間にエヴァン様はいらっしゃいませんかー?」

騎士様エヴァン?」


 廷臣の中から、ひょっこり騎士様エヴァンが顔を出した。……アリーテの顔を見なくても、両目がハートになってるのがわかる。よだれを拭け。


「ケーシーとエヴァンはもう面識あるんだよね。じゃ、魔法剣の詳しいことは後でエヴァンから教わってね! あ、エヴァン、ついでに水源調査の件もよろしく。ご静聴ありがとう! また会おう!」


 さっそうと王様は去って行く。王様が隅の扉から退室すると、謁見の間の緊張がほどけた。


「以上をもちまして、本日の謁見を終了いたします。後方お出口より順次ご退出をお願いいたします……」

「コレ謁見じゃなくね?」


 ケーシーが文句をつけた。


「そう? 俺感動したけどな。王様って初めて会ったよ。お金持ちなんだなあ、人に会うためだけにこんな豪華なピカピカの部屋があるなんてすげえなあ」

「ろ、ロ=ミルアの王家だって謁見の間くらいあるわよ! こんなピカピカじゃないけど」


 エヴァンの方を見てラブラブ光線を送っていたアリーテが正気に戻って言い返してきた。クロが「はー」と感心したように息を吐いた。


「ティルトの国王陛下はずいぶんと気さくな方なのですね」

「気さくっていうか、変じゃねえの? 舞台照明つきの謁見の間とか初めて見たわ」

「こら。不敬よ、不敬」


 ケーシーの意見にアリーテが小声でたしなめる。


「陛下はけっこう自由な気風の方だから……いろんな職業に憧れをお持ちなんですって。芸人とか、護衛とか」

「変な王様。まあ、魔法剣の挑戦権もらったからヨシとするか」

「魔法剣って何? どんなの?」


 俺が尋ねるとクロとQ術師カザンが応えてくれた。


「ティルト王国の伝説の魔法剣は、森の台座に刺さっているのです」

「救国の戦士しか抜けないって言われてるッスよ」

「へー。でもケーシーがそれ抜いちゃったら、こないだミリタル商会で買った剣は無駄になっちゃうんじゃないの?」

「剣は何本あってもいいものだ」

「それが無駄づかいだと言うのだ~~~~~~」


 俺とケーシーがにらみ合う後ろで、クロが冗談めかして言った。


「でも今までいろんな勇者が挑んでも抜けなかったんですから、誰も想像しなかったような意外な人が抜くのかもしれませんね。案外、ジャック様が抜いてしまうかもしれませんよ」

「え? 俺? 『貧民街からやってきた、救国の戦士、節約ジャック参上!』って? ないない」

「うーん、ジャックさんには、その短剣の方が似合うッスよ。お父さんの形見っスよね?」

「でも、ジャック様も、ちょっとだけ試してみては」

「うーんクロも試してくれるなら」

「約束ですよ」

「エヴァン様~~~~~!」


 俺とクロの約束はアリーテの黄色い声にかき消された。騎士様エヴァンがひょっこり顔を出したのだ。


「姫、馳せ参じました……愛ゆえに」

「エヴァン様、ずっとお慕いしておりましたので、寝る暇もないくらいでしたわ……いつ王都にお戻りに?」

「はい、今朝方。一刻も早く姫君のところに馳せ参じたかったのですが、陛下への報告などもありましたので……報告中も姫君の笑顔がちらついて」

「目の当たりにするとウザいなこのやりとり」

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