課金勇者! 節約ジャックと紅蓮《あか》い金かけ男
「この街にはなんでもある!」……「ケーシーじゃあるまいし」……「干し芋? の? 何?」……「何のお話でしたっけ」……「本当の悪魔は買い手の心の中にいる」
「この街にはなんでもある!」……「ケーシーじゃあるまいし」……「干し芋? の? 何?」……「何のお話でしたっけ」……「本当の悪魔は買い手の心の中にいる」
「すすすすごい。なんでもある! この街にはなんでもある!」
「いや、なんでもはないスよ」
王都リンブラにはところ狭しとお店が並んでいる。ポートンだって、港町で商人もいるし、それなり、賑わってはいるけれど、王都リンブラはもう格が違う。
そもそも、貧民街で日銭稼いでやりくりしていた俺には、屋根のある店に入って買い物をするなんてことは縁がないと思っていた。ところが、リンブラの南門で、衛兵に
「ここの門は『交易の南門』と呼ばれています」
「北の門は出征門と呼ばれて、バディアル連合との戦いを連想させますが、南の方は交易が盛んスからね。モガール帝国やフランクロイト王国方面からの街道が南に着くっスから」
「お、そうだ」
ケーシーが思い出したように手をポン、と打った。
「この辺で分け前を渡しておかないとな。買い物もするだろう」
「分け前?」
「エヴァンの護衛任務、無事終わったから報酬をもらってんだ。
「じゅ、じゅ、
びっくりしてセリフがかぎ括弧の外にはみ出した。
「そんなにもらえないよ。俺何もしてないし」
「ばーか。誰がどんだけ役に立ったかなんて、決めようがないだろうが。こういうのはな、役に立ったかどうかで取り分変えると揉めるんだ」
「そうかなあ」
ケーシーとクロが取り分で揉めるなんて想像つかない}けど。
「それに役立つかどうかは、運任せの部分もある。役に立ったやつだけが得するような仕組みにしとくと、何かあった時に脆い。第一、お前は今回……いやまあそう言うことだ」
「ジャック様。ケーシー様が言いかけて止めたのはですね、ジャック様は今回だいぶ活躍なさったということです」
「おーーーい」
「ケーシー様は照れ屋なので人を褒めるの下手なのです。許して差し上げてください」
「俺が役に立ったとこなんかあったっけ?」
「遊園地の調査もしましたし、たのQでゴリラを撃退して
「実際、ジャックの
「でも……」
「とにかく! お前の取り分は
小袋に入った金貨を押しつけられた。そっと中身を覗くと、本当に金貨だ。使いやすいように銀貨も混ざってる。慌てて懐の奥にしまう。
「こんな大金持ったの初めてだ。ドキドキする」
「ちょうど、南門の周りは商店通りだから、ちょっと買い物したらいいんじゃないスか? 僕も欲しい物あるし」
「そうだな。俺もいろいろ仕入れておきたい。ジャックはクロに一緒に回ってもらえ」
「う、うん」
「無駄づかいすんなよ」
「し、しねーよ! ケーシーじゃあるまいし」
待ち合わせの時間を決めて、クロと歩き出す。
「えーと、えーと、どうすればいい? 俺どうすればいいの?」
「ジャック様は何か欲しいものはないんですか?」
「えっ? 干し芋? の? 何?」
「……ちょっと落ち着きましょう」
クロと二人で散策する。
「あれは何のお店?」
「美術商でしょうね。絵画や彫刻を商うお店で、貴族が多い王都では結構買い手があるようですよ」
「へー。アレは?」
「洋服屋ですね。正装を扱うお店のようですから、私たちにはあまり縁がありませんが」
「あっ、そうだ、靴を見たい。今の靴、歩くたびに音がうるさいんだ。もうちょっと静かに歩けるのが欲しい」
穴でゴリラと鉢合わせしたのも、半分は靴のせいじゃないかという気がする。ケーシーやクロのように強かったらともかく、俺のような弱者は、できるだけ静かに気付かれずに歩くことが生死を分ける。
「いいですね。それなら、確かあちらの路地にいいお店があったように思います。まだあればいいですが……」
クロが案内してくれたのは、路地にある小ぢんまりとした店だった。店の爺さんに足音のしない靴はないか尋ねると、「子供の足か……」と悩みながらも、柔らかい革張りの靴を見つけてくれた。歩いた感じがふわりとして、音がしない。
手に取ってみると、驚くほど軽い。
「それか。それは
爺さんはマントを手に取ると、俺に合わせてくれた。
「本当はもっと長かったんだが、裾が破れたってんで、うちで引き取って裾を詰めたのさ。あんたにゃちょうど良さそうだ。靴と一緒に買ってくれるなら、安くしとくよ」
「いくら?」
「
高いな! と諦めて壁に戻した。
「合わせて
「いや、いいよ……無理だよ」
クロが割って入った。
「私たちの予算では、
「クロ? 正気?」
「おいおい。
「残念です」
「わかった! そっちの子ほど背丈が合う相手も滅多にないし。ここは合わせて
「いいでしょう。取引成立ということで」
クロと爺さんは握手して、爺さんは商品を包み始めた。
「ジャック様、マントは私からの贈り物です。
「ええっ? そんな、悪いよ」
「いいえ。私が勝手に購入したものですから。それにジャック様には感謝しています」
「感謝?」
「一緒に来てくださったことに」
「そんな……クロが言ってくれたおかげでついて来られたんだよ。お礼を言うのは俺の方なのに」
俺たちは、靴と、マントを受け取って、店を出た。ちょうど、訊きたかったことを、訊くいい機会だと思った。
「ねえ、クロ、俺がケーシーについていくって言ったとき、クロは賛成してくれたじゃん?」
「はい」
「あれはなんで? やっぱり貧民の俺に同情したから?
「いいえ。ケーシー様のためです」
「ケーシーのため?」
まるで意味がわからない。
「ジャック様。私はケーシー様を尊敬し申し上げています。自由で奔放で独立していてお強い。なんでもおできになる方です。頭脳も明晰です」
「惚れてんの?」
あんまりクロが饒舌なので、つい、口を挟んでしまった。クロは何かを言いかけ、口をぱくぱくさせた。
「……」
「……」
「……」
「……」
「話を戻しますと……ええと、何のお話でしたっけ。ええと、何のお話でしたっけ」
え、ちょっと、これ脈あるじゃん。ケーシー何やってんの。バカなの? 美人で体型良くて賢くて素直で脈がある。おいおいおいおい何やってんだよ。バーカバーカ。
「ああ……そうそう、ええ、ケーシー様は素晴らしい御方です。だからこそ、ケーシー様に意見できる人はいません。普通であれば。ジャック様がケーシー様を怒鳴りつけているのを見て、あなたはケーシー様に必要な方だと思いました」
「はあ」
「ケーシー様に心酔している私ではできない役割を、ジャック様ならできる、とそう思ったからです。だから私たちにはジャック様が必要なのです」
「俺にできる役割……」
俺にできる役割なんて、ホントにあるのかな。ケーシーにできなくて、クロにできないような、そんなことがあるなんて思えない。二人は本当にすごいもの。
でも、クロがそう言ってくれるなら、今はせめて、ケーシーの無駄遣いを戒めて、あいつの財布の紐をしっかり締めておこう。それが俺にできるせめてもの……
「買ったなぁ?」
「ひっ」
振り返るとケーシーが笑っていた。悪魔の微笑み。俺の持っている靴とマントの包みを見て笑っている。
「ククク……無駄づかいの嫌いなお前が買い物ね……」
「ち、違う! これは無駄づかいじゃない!」
「ケケケ……本当にそうかな。自分の胸に訊いてみるがいい。買い物をするときのウキウキやワクワク……それこそが無駄づかいの源泉。本当はお前は無駄づかいがしたいのさ……」
「うわあああああああ! 違う! 違う!」
耳をふさいで取り乱す俺を、クロが優しく抱きしめてくれた。クロはケーシーをジト目でにらんで言う。
「ケーシー様。いじめすぎです」
いつのまにか
「トラウマになったらどうすんスか」
「チッ。いや俺は、ジャックに無駄づかいの健全な喜びを教えてやろうと思ってだな」
「どう見ても悪魔でしたよ」
「ケケケ。本当の悪魔は買い手の心の中にいるもんなんだよ。奴らがささやくんだ。
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