【外伝】あなたが教えてくれたこと

小林汐希

0話 プロローグ・海岸から叫んだ心の声

【0-1】 ありったけの叫び声




 高校時代ってなんだろうね。


 公立の小学校・中学校は義務教育。一番大きく違うのは、高校に行くための受験を乗り越えなくちゃならない。


 みんな、受験が終わるまではっていろいろと我慢もするから、ストレスだって溜まるよ。


 それ以上に合否が出る試験には誰だって不安になるし、それがひとりぼっちだったら「助けて!」って叫びたくなる時もある。


 そんなとき、ずっと一緒にいてくれる友達の存在ってどれだけ有り難いのだろう。


 自分のことをおくびにも出さず、大丈夫と励まし続けてくれた。いつも一緒にいてくれて、同じ高校に合格して……。そんな天使のような存在の親友があたしにはついてくれた。


 これから始まるあたしの経験談では、そんな親友との出会いも忘れられない1ページ。


 それなのに、運命というものは彼女にだけ試練を与えたのだろう……。


 あたしたちの「同窓生」というひとつの関係は、高校時代の途中で途切れてしまった。



 でも、そこから先はあたしにはとても真似ができない。


 何度も傷ついて、泣いて、生きることすら諦めかけて……。


 でも最後は自らの力で全ての困難を乗り越えたうえ、職業や生き方までを変えて彼女を絶望から守り抜いた人の胸元で最高の笑顔を見せてくれた。


 あんな本当に強い子があたしの親友でいてくれている。


 学校の関係がなくなったとたんに疎遠になってしまう元クラスメイトも多いのに、彼女は高校を途中で去る帰り際に言ってくれたんだ。


「中卒の私でもよければ愚痴りにきてよ」と。


 泣きそうな顔を一生懸命に笑顔に作り替えて……。


 その言葉は嘘じゃなく、あたしと彼女の強い友情は続いているし、その絆は強まる一方だ。



 今日、あたしはひとりで実家に帰った寄り道で地元の砂浜に来ている。


 12月という海としてはオフシーズン。それに今日は珍しく波もほとんどないから、サーファーの姿も見えない。


 冬空の下に水平線まではっきり見えていて、そこに向けてありったけの声で叫んでみた。


結花ゆかぁ! 早く帰ってきてぇっ!! 寂しいよぉ……!」


 もちろん聞こえるわけがない。でも、これがあたしの心の中で一番大きな本音の声。


 そう、私の一生の親友であると指切りをした結花はいまこの広い海の向こうだ。それも、結花自身が寂しさに耐えきれないと、彼女はたったひとりで愛する人のもとに羽ばたいていった。


 最初に話を聞いたときは、まさかと思ったけれど、それが結花の真の強さの象徴でもあったんだ。


 メールで時々やり取りはするし、写真もいろいろ送ってくれるけれど、やっぱりオンラインよりもあの可愛い……、でもどこか年齢を超越した優しさがにじみ出ている顔を直接見て会いたい。


 他の女友達とは違う。結花にしかできないことをあたしに与えてくれるから。


 さっきの叫び声が直接彼女の耳に届いたとはあたしだってもちろん思っていない。


 でも、結花はそのすぐあとにあたしにとてつもなく大きなプレゼントをしてくれたんだ。


 そう。あたしの人生で「大人としてのスタートライン」に導いてくれることになるのは、紛れもなく彼女なのだから……。

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