四十九話 行き止まりになった時こそ道ができる


「俺は、千佳がどうなったとしても、一緒にいてもらいたいんです。もちろん、お金の問題とか、きれい事だけじゃ済まないことも分かってます。苦労させちゃうかも知れないけれど、どんなに金持ちになっても、千佳がいなければ意味がありません。ですから、大学を出たら就職します」


「そうか」


 小島先生は今度はあたしの方に向き直った。


「斉藤はこう言ってくれている。今度は佐伯だ。今は男性よりも女性の方がいろいろな道があるのは確かだ。この原田だって、ここまで来るのは何度も悩んだし、二人で何度も喧嘩もした」


 先生は変わっていなかった。あたしの個人面談の時、同じようにいろんな話をしながら一緒に答えを探してくれたから。


「先生、あたし、いろいろ迷ってます」


「ほう?」


「あたしのことを大切に思ってくれている和人と結婚したい、それに和人だけに苦労させたくない。だから働こうとも思ってる。でも、結花が結婚して赤ちゃんまで産もうとしているのに、あたしは女としてなんにも出来ていない。どれを取ればいいんだろう?」


「そうか。悩むよな……」


 俯いたあたしの肩を先生はたたいてくれた。


「佐伯、お前は考えすぎだ。この原田だって、退学するギリギリの高三の四月まで進学希望だったんだぞ? 知らなかっただろ?」


「えっ?」


 知らなかった。あの病気になってから、結花は進学を諦めたと言っていたのに。


「ごめんね。諦めたというより、限界だったの……。このまま進学してもやりたいことも見つからないって。だから考えるのを終わりにしようと思ったのがあの連休だったんだよ。もちろん寂しかったし、先生との約束を果たせなくなって負けちゃった自分に情けなかったし悔しかった。どっちかと言えば、行く先が見つからなくて自棄になってた……」


 そこで語られたのは先生を含めて全員が初めて聞いた信じられない話。結花が自宅で飛び降り未遂を起こしていたなんて……。


「原田……」


「情けない話なので、先生にも伝えてなかったんです。でも、それがあって私は自分の限界を知りました」


「そうか、もっと早く言え。水臭いぞ」


 そうだろうねぇ。ここまで一緒に過ごしていながら、伝えられていなかったというのは、ある意味イレギュラーなことだと思う。


「誰も怪我をしなかったので、両親以外は誰も知りません。でも、それで学校を辞める決心がつきました。『終われない』なら少しずつ治していくしかないって……」


「そうだったのか……」


 もちろんあたしも知らなかった。


 時間をかけて体制を立て直した結花は、少しずつ仕事をしながら自分の道を見つけ出していったんだ。


「いきなりの事件発覚で話がずれたが、俺も原田も、佐伯が進みたいような就職先の候補はいくつも知っている。佐伯の気持ちをきちんと整理して、自分の進みたい道を考えてくれ。そのための手伝いなら手間を惜しむつもりはない」


 結花も教えてくれた。結花が仕事をしていた児童福祉施設でもやはり人手が足りない。一般企業では条件が厳しくても、いろいろと目を向けてみれば、あたしでも役に立てる仕事は見つけられる。あとはあたしの決心なんだって。


「ちぃちゃんなら、そのための勉強しているし、きちんとやっていけると思う。私も今はこんな体だけど、前にお仕事したところに連絡したら、仕事はいくらでもあるから是非また来て欲しいと言ってくれたし。だからね、体調をみながら少しずつ復帰するよ」


 結花はそう言って、もし希望であればあたしのことも職場に話してくれると約束してくれた。


「ありがとうございます。なんだか、悩んでいたのがスッと軽くなりました」


 遅くなってしまった昼食を結花と作る。


 やはり数年間だとしても先輩主婦は手際が違うと感じた。


「結花、ありがとうね」


「うん? 私は大人の先生がいてくれたし。他の生き方は出来なかったからなぁ。ちぃちゃんの方が悩むと思うんだよねぇ」


「結花はそれで後悔してない?」


「ううん全然。逆にこれしか私には道がなかった。いろんな人の力は借りていいんだよ。恩返しはあとでいくらでも出来るから」


「結花……」


 強くなったんだね。凄いや……。


 あたしの就職の件も先生と結花に相談することにして、二人は帰っていった。

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