四八話 お互いを想いあう覚悟はあるか?
現役の高校生では理解できなくても、大学生になった今ならできる。
同じように、学生の間での将来を模索し、別の進路をとるべきか悩んだ同級生を何人か知っていたからだ。
でも、その全てが成功したというわけではないとも聞いた。
それだけ結花たちがあの当時に難しい大人の判断を悩みながら下して、それを守りきったから今がある。
「そうは言っても、原田さんは別格ですよね?」
「そう言いたいところなんだが、この間、あそこの先生と久しぶりに飲んだ時に聞いたところによると、高校卒業して一年以内に結婚したのは他にもいたそうだ。だから、原田があの十八歳の最後で入籍したのは残念ながらトップじゃなかったんだなぁ」
結花の誕生日は早生まれで学年度末の三月二十五日。だから、同じ学年だったとすれば、もっと早い子がいたんだ。
「へぇ、それじゃ赤ちゃんは?」
「それも聞いたら、もう子持ちもいるそうだ。このまま行けば原田の出産は二十二歳だから、学年で言えば大学四年だろう? 一般的な女性の体から考えれば早すぎると言うこともない。まぁ、最近の風潮からすればそれでも十分に早いほうに入るんだろうけどな」
それも聞いていなかった。あの高校で、卒業生の八割が進学、残りの二割が就職となっている。その就職組の中で、早くに人生の伴侶を見つけて家庭を持つという進路を選んだ同級生が他にもいたということだ。
「先生、あたし、どうすればいいか本当に分からなくなってきたんです……」
ここまできて、あたしは先生に自分の不安を吐き出した。
和人と五年間一緒に過ごしてきたこと。彼のことを思う気持ちは今も全く変わっていないし、去年からはこうして一緒に暮らしているということ。
どちらの両親からも交際は反対されておらず、将来的には二人が結婚することも視野に入れてくれていること。
「なるほど。聞く限りは順調に来ているのに、佐伯は何が不安になったんだ? それと佐伯の気持ちは分かったが、斉藤はどうなんだろう?」
先生は、あたしに頷いて和人の方を見た。
「俺は、千佳のことが誰よりも大事です」
「そうか」
先生はそう言い切った和人に目を細めた。
「では斉藤。もし佐伯が今のように元気な体ではなくなってしまったとき、佐伯を支える覚悟はできているか?」
結花が顔を上げる。
「先生、私のは特別ですよ……」
先生は頷いて穏やかに答えた。
「確かに、原田の一件はあの年齢を考えればイレギュラーに思えるかも知れない。でもな、原田がいつも必死で頑張っている姿を見て、例えあのまま寝たきりになったとしても、俺は原田を支えようと決めていた。それは原田から例の手紙をもらう前からの話だ。しかし、当時は俺も原田も許させる関係ではなかった。本当にどうしようか悩んだよ」
「じゃあ、私を追って学校を辞められたのは本当だったんですか?」
「表向きにそんなことを言えば大騒ぎになる。前にも言ったかもしれないが、原田の退学を知った日から、本当に自分に力が入らなくなった。支えを失うというのはこういうことを言うのだと思ったよ。生徒に支えられてるんじゃ、それこそ教師失格だ。ただな、原田のせいじゃない。俺がまだ学生時代のことに
先生は笑っていた。もう認めちゃったと同じ。結花の存在がすでに特別なものになっていたわけだから。
それに結花はもちろん、先生も学校にはいない。それを今から蒸し返してとやかく言われることもない。そのために二人は「生徒と教師」という関係を人生をかけて断ち切ったのだから。
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