第6話 トラブルシューター エレジー

ある日の事。


「エレジーちゃん、助けてあげて!」


みゆちゃんの親友シングルマザーのKちゃんが困っているとの事。私の先輩のお気に入りだったホステスのKちゃん。女手ひとつで、2人の子供を頑張って育てていた。


しかし、ある男に悩んでいた。


その男Nはアパートの1階に住んでいるHちゃんの向かいにある一軒家に母親と二人で住んでいた。そして、何かにつけてクレームをつけてくるという。


例えばアパートの前の道路で、Hちゃんの子供が遊んでいると、「うるさい!」。

荷物を下ろす為、車を止めていると「公共の道路に止めるんじゃない!」等々。


道路絡みで文句を言ってくるとの事だった。狭い道路なら言われても仕方ないけれど、車3台分くらいある広い道路。しかも、クレームは昼夜を問わず、夜でもドアを叩いたり、台所の窓越しに言ってくる。


おそらく仕事をしておらず、ずっと監視しているかのように5分と経たず言いにくる。いつか危害を加えられるんじゃないかと、恐怖を感じているとの事だった。


私もKちゃんとは子供を含めて食事に行ったり、遊びに行ったりしてよく知っていた。


「そうか・・・そら怖いわな。よっしゃ!エエで!」


私も当時はイケイケだったので、この手の話を聞くと血が騒いだ。


時間は夜10時。


みゆちゃんと二人、Kちゃんのアパートに行った。


道路に車を止める。


Kちゃん、子供たちも不安そうな顔をしていた。そんな姿を見て、その男に対する怒りが沸々と湧いてきた。


女子供をここまで怯えさせるなんて許せない!


私の怒りに、とろ火で点火されるのがわかった。部屋に入りKちゃんが出してくれたお茶に手を伸ばそうとしたその時。


「Kさーーーーん!ダメですよーーー!車ーーー!ダメですよーーー!」


部屋に入って、5分も経っていないんじゃないだろうか。私は飲み物に伸ばそうとしていた手を止め玄関に向かった。


季節は夏。


台所の窓は開いており、その窓の外側の鉄柵に顔を引っ付けて、その男は叫んでいた。その様は、映画「シャイニング」のパッケージの男のようだった。


そら女子供だけの所に、こんなんされたらさぞかし怖かったことだろう。


「何をギャーギャーわめいとんねんっ!」


私が怒鳴りながら玄関に行った。その男は私の顔を見ると表情が変わり、叫ぶのを止めて走って行った。やはり、女子供だけだと思ってナメていたんだろう。


私とみゆちゃんは向かいにあるNの家に向かった。


「すいません、おたくの息子さんと話をさせてもらえないでしょうか?」


私たちがNの家に行くと、母親が心配そうな顔をして出てきた。


「は、はい・・・」


母親が奥に行った息子を呼びに行こうとした。


「う、う、うるさーーーい!お、お、お前らと話すことなんかなーーーい!」


奥からNが飛び出してきた。その顔は、完全にいっちまったキチ○イの顔だった。


「まぁ落ち着いて、話しようや。」


私たちの間を強引に割って入り、外に出ようとしたNの腕を掴んで言った。


「や、や、やめろーーー!離せーーー!」


Nは激しく暴れ、私の手を振り払い逃げようとした。


「えーからじっとせーって!」


私とNは激しく揉み合った。そこにみゆちゃんも加わり、カオスな事態になった。


Nが激しく抵抗した際に私の顔にNの手が当たり、私もエキサイトし手こそ出さなかったけれど、思いっきりローキックを2発いれた。ローが効いたのか、Nの体がくの字に折れ曲がる。


Nは、私よりもタッパがあり力も予想以上に強かった。みゆちゃんも昔の血が騒いだのか、Nの襟首を掴んで叫んでいた。


事態は急速に展開していった。


Nは力ずくで私たちから逃れ、夜の住宅街を走って逃げていった。私のローが効いているようで、片足を引きずっていた。


私たちもNの後を追う。


「誰かーーー!殺されるーーー!」


いやいやいや、なんで殺さなあかんねん!と、笑いながらみゆちゃんと顔を見合わせた。でも、「殺されるーーー!」と叫んでいるのに、誰ひとり出てこない。民家や団地があるのに、この無関心。


それはそれで怖いなと思った。


「アイツ、どこまで行くんやろな?」


みゆちゃんと笑いながら話していた。


けれど、しばらくすると明かりがポツンと見えてきた。


交番だった。


シャツがビリビリに破れ、口から血を流し、殺されると叫んでいる。その状態で交番に駆け込まれる。


相当面倒臭いことになるのは明らかだった。


「ヤベーな・・・」


私とみゆちゃんは顔を見合わせた。

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