2番・・・

エレジー

第1話 出会い

「エレジー!今日、飲みに行かへんか!俺のお気に入りの子が居んねん!」



彼女との出会いは、先輩のそんな言葉で始まった。



「いいっすね~!行きましょ!行きましょ!」



元来、夜の世界で遊ぶのは嫌いじゃなく、むしろ大好きだった私は二つ返事で答えた。その店は大阪の北新地にあった。私が行くのは、安い店が多いミナミ。



北新地は高級な店が多いから、自腹では行ったことがなかった。変な格好では行けないので、スーツを引っ張り出してきて着替えた。



先輩、私も知っている先輩の友人、私と3人で飲みに行く事になった。タクシーに乗り、3人で、先輩のお気に入りの女の子の話を、あーでもないこーでもないと楽しく話していた。段々、窓から見る景色がネオン街の光で満たされる。



このワクワク感。



どんな出会いがあるのかな~!



ま、あくまで向こうは商売。そんな事は百も承知。



の上で、楽しむ。



とは言いつつ、本気の恋に発展するかもと、淡い期待も持っている。この相反する感情の狭間で楽しむ。



これが、夜遊びの醍醐味だと。16歳から夜遊びしている私の考え。



「おっ!ここ!ここ!」



そんな事考えているうちに先輩の目指している店のビルに着いた。手慣れた手つきでエレベーターの階数のボタンを押す先輩。



「いらっしゃいませ~!」



威勢のいい女の子たちの声。ボックス席に通された私たち。



「いらっしゃいませ~!あ~、Kちゃ~ん、いらっしゃ~い!」



先輩のお気に入りの子が、私たちの隙間を通り先輩の横に座った。



「いらっしゃいませ~!」



続いて、2人のホステスさんが、それぞれ私たちの横に座った。



こう見えて結構な恥ずかしがり屋な私。女の子の顔を見たいのは山々なんだけれど、中々見る事が出来ない。



別に興味はないよと言わんばかりに、他所を見ていた。



「どうも~、はじめまして!みゆです!」



「あ、どうも・・・。エレジーです。」



チラッと、みゆちゃんの顔を見た。



(ええーーーっ!めちゃめちゃ可愛いいやん!)



ヤバい、動揺がバレないように、また他所を見る私。



「も~エレジーさん、私に興味ないんですか~!私の事全然見てくれへん!」



ごめん、俺、あまのじゃくやから・・・



心の中で、みゆちゃんに謝る私。しばらくすると、私も慣れてきて、みゆちゃんの顔を見ながら話せるようになった。



改めて見ても、顔、スタイル、今まで出会った中でも断トツの女性だった。外見だけだけど、ここまで自分の理想とする女性に出会った事がなかった。



もし、こんな理想の子と付き合ったとして、年数経って飽きるようだと、どの女性と付き合っても一緒だな・・・



頭ん中お花畑の私は、みゆちゃんと会話しながらそんな事を考えていた。



「ちょっと、トイレ行ってくるわ。」



みゆちゃんとの楽しい真っ盛りの会話をしていても強烈な尿意には勝てない。そう言ってトイレに行った私。



いや~、今日、来て良かったわ~!



尿が出終わる時間すら恨めしいくらい、みゆちゃんと早く会話したかった。あまりに早く小便を出そうとして、尿道切れるんちゃうかと思うくらいだった。



席に戻ると、みゆちゃんは隣の先輩の友人と楽しそうに盛り上がっていた。なんか、その姿を見て、はいはい、出ましたよ、所詮、水商売はこんなもんよ。途端に機嫌が悪くなった私。今、思い出しても、ガキだなぁ~って恥ずかしくなる。



「あ、エレジーちゃん、お帰り!いつの間に戻ってたん!」



私に気付いて、私の方に体を向けるみゆちゃん。



フンっ!さっきまで隣向いてたくせに!



相変わらずへそをまげたままの私。



「どうしたの?エレジーちゃん、具合悪くなったの?」



先程の態度からジキルとハイド並みに変わった私の態度に心配してくれるみゆちゃん。



ごめん、みゆちゃん、俺、面倒くさい客で・・・



またしても、心の中で謝る私。



「じゃあ、チェックで!」



機嫌も直り、また、楽しくみゆちゃんと話していた私に先輩の無情な言葉が。夢のような時間は、あっという間に終わった。



帰りのタクシーの車中、先輩が聞いてきた。



「どうやった、エレジー?」



「いや、Kさん、めちゃめちゃタイプっすわ、みゆちゃん!」



酒の力もあり、テンション高く先輩に、みゆちゃんの事を話していた私。たまたま、先輩のお気に入りの子とみゆちゃんは幼なじみの友達だった。そんな事もあり、それからも先輩は私を飲みに連れて行ってくれた。



しかも全部おごりで。同伴したり、アフターでカラオケ行ったり。



その内、みゆちゃんが自分の身の上話をしてくれた。その話を聞いた私は、どんな言葉をかけたらいいのか言葉を失ってしまった。



それくらい衝撃的な話だった・・・

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