婿
影神
成人
生れつき、耳が悪かった。
何処で産まれたのか。
誰から産まれたのか。
そんな事なんて何も分からないまま。
僕は両親に捨てられていたのだ。
知らないある家に拾われ、
何回と、別の家を転々とした。
耳が聞こえないから。
言われている事が分からない。
怖い顔をして、ひたすら手を挙げられた。
ただ痛く、怖かった。
それに僕は笑う事しか出来なかった。
何回か回数を重ねると、
何となくやることが分かってきた。
土を耕したり、家を掃除したり。
後はお使いをしたり等。
それでも、、上手くは出来なかった。
だって、何を言っているか分からないのだから。
痛みを待ち、痛みを耐え、笑った。
変な顔をすると、またやられるから、、
その家には女の子が居た。
僕よりも、年下の子。
元気で、わがままだった。
子供は、親に似る。
僕の親も。
誰かから暴力を受けているのかも知れない。
その子もよく暴力を振るった。
ある程度歳をとった時。
僕はいつもの様に暴力を受けた。
痛かったが。
いつもの様に笑って見せた。
でも、その後はいつもと違った。
優しく。抱き締められたのだ。
初めて人の温もりを感じ、僕は涙が溢れた。
それからは、女の子は僕に暴力を振るわなくなった。
だからか。両親も、あまり僕に手を挙げなくなった。
けれど。
僕の悪口を言っているのは分かった。
口の動きが、同じ事を繰り返していたから。
『ツカエナイ、ヤクタタズ』
と。
それからは、女の子に、文字や意味を教えて貰った。
字を書き、女の子の口の真似をした。
たまに違うと、唇を手で変えられた。
人生でその時間だけが、
とても。楽しかったかも知れない。
ある日。
皆で出掛けた。
女の子は僕の手を握り、一緒に歩いた。
また捨てられる。
そう思っていた。でも違った。
その場所は広いお家で、綺麗な物が沢山あった。
どうやら今日は女の子にとって、大切な1日らしい。
特別な時に、ここへ来るんだと教えて貰った。
僕はいつもの様に、掃除をした。
途中で、ここの人が来て、僕の手を握り微笑んだ。
手が温かく、優しい顔をしていた。
掃除をしていると、水が出ている上から、
水が漏れているのを見付けた。
水が上から出ている時は、
それを塞がなければいけないと。
前に教えられた事があった。
だから、僕は上を外した。
すると、何か支えていたものが落ち、
同時に、薄い様な、綺麗な格好をした女性が。
すうーっと。中へ入って行った。
それを知らせようとしたが、
僕はまた余計な事をしてしまった様で、
久しぶりに暴力を受けた。
それを見て、ここの家の人が止めてくれた時。
奥から慌てて、誰かが出てきた。
皆は、急いで家へと入って行った。
僕も気になって、後を付いて行った。
奥へと進むと、女の子が倒れていた。
隣にはさっきの綺麗な人がいた。
女性「綺麗だね。
美しい。。」
僕は初めて声が聞こえた事にびっくりした。
そう言い、女の子に触れ様としたその時、
僕はその人の前に出された。
すると、女性は僕の脚を掴んだ。
女性「いや。
君の方が綺麗だね?」
綺麗な顔だった。
冷たい手が、少し怖かった。
女性「この子のお父さんに、なっておくれ?」
気が付いた女の子は、両親に抱き締められながら、
僕の方に泣きながら手を伸ばした。
この家の人は、皆を守る様に、間に立っていた。
こうして、僕は新しい家族の元へと手を引かれた。
女性からはとてもいい匂いがして、
何だか、落ち着く様な感じがしていた。
気持ちが、ぼーっとしていると、
岩の様な場所に入った。
この人の家だろうか、、
そう思っていると。
一瞬にして景色が変わった。
えっ。。
この人が普通の人で無い事を。
僕は初めて知った。
女性「さあ。
ここが私達の新しいお家よ?
もう、暴力を受ける事も無い。
この子と一緒に暮らしましょう?」
女性は、僕の手を。
お腹の上にそっと乗せた。
お腹は温かく、女性の手の温度とは、
あからさまに違っていた。
女性「あなた。
話しても良いのよ?」
?
どうやら僕は彼女の綺麗な声に聞き入っていた様だ。
声が聞こえると言う事を。耳で感じ取っていた。
それか、綺麗な景色にでも見とれていたのかも知れない。
話す?
「、、、あ。
あっ、、。。」
話せた、、
声が聞こえて、声が話せた。
僕は嬉しくって、泣いた。
彼女は、僕の頭を優しく撫でてくれた。
女性「可哀想な子。
大丈夫よ?大丈夫。」
それから、彼女との生活が始まった。
緑の綺麗な景色。
彼女の匂いと、彼女の綺麗な声。
いつからか。
僕は、彼女に魅了されてしまった様だ。
僕は、少しずつ歳をとった。
だが。彼女は、全然変わらなかった。
ずっと、出逢った時と同じ。
あの日の綺麗なままだった。
あれからどのくらい経ったか分からないが、
お腹の赤子はまだまだ産まれなかった。
彼女は大丈夫なのか?赤子も大丈夫なのか。。
そんな事を考えたりもした。
僕が生きている内に、彼女の子供は生まれるのだろうか。
赤子のお父さんは、誰なのだろう。
彼女は、何故私を婿にしたのだろうか。
きっと、赤子には、両親が必要だったのだろう。
勝手に自分で解釈する。
自己完結が癖になってしまったのだろう、、
彼女は、大切そうに、赤子を撫でる。
女性「可愛い。可愛い。
愛おしい、、我が子。
早く元気に産まれておくれ、、」
僕も、こうして貰えたのだろうか。
羨ましそうに見つめる僕の頭を。
彼女は、察した様に優しく撫でる。
女性「可愛い。可愛い。
我が婿よ。」
僕はそれがとても幸せだった。
婿 影神 @kagegami
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