君の名は? 【勇騎視点】

 うーん、これは一体どういう状況なんだろうか?



 俺はなぜか今……まるで時代劇とかで見た事あるような城の中の、あの殿様とかがいるような立派な大広間にいた。


 俺は確か……あぁそうだ。確か自殺を図っていて、そしたらなぜか急に謎の魔法陣が現れてそれでそのまま吸い込まれてしまったんだったっけ?


 視線を足元へ向けると畳の上には俺を吸い込んだあの魔法陣と同じものがあり、その事から多分俺はここから出てきたんだろうと推測出来る。


 次に前方へと視線を向ける。

 すると俺の目の前ではどうやら二人の男が戦っていたようで、お互いに息を切らしながらも相手に向けて自身の持っている得物を構えていた。


 一人はその手に大きなシャベルを持っており、白のピチピチタンクトップに黄色のヘルメットを被ったいかにもガテン系なマッチョメン。

 もう一人は白の軍服のような服装で、刀を両手で握りしめ、腰にも一本白い刀を帯刀した初老の男性だ。


 けれど、そんな二人の視線は何故か交わっておらず、それどころかまるで霊的なモノにでも遭遇したかのような酷く驚いた表情で俺の方を見つめている。


 ……え、なに? いや、確かに何も無い所からいきなり男が現れたらそりゃびっくりするだろうけど……そんな大の大人が二人して固まるほどびっくりする事か? え? ここって剣とか魔法とかが当たり前の、ファンタジー異世界なんじゃないのか?


 俺は二人の男からの眼差しに耐えられず、すがるような思いで周囲を確認し始める。


 まず最初に、目の前の筋肉ん(仮)の後方……部屋の片隅で微笑みを絶やさずこの状況を見守っている一人の女性を発見。


 多分、位置的に筋肉ん(仮)の仲間であろうその女性……真紅のゆるふわロングヘアーで左右に細めの三つ編みを垂らし、右目側だけ前髪で隠れている綺麗な顔立ちの美人さんだ。が、その服装が大問題だった。

 黒のベルトを豊満な胸や下半身などに巻きつけているだけといった……まるで今にも強風の中で歌い始めそうなとてもホットでリミットなドスケベ衣装だったのである。


 ……あ〜、うん、多分あれはきっと目を合わせちゃいけないタイプの人だろう。


 次に俺は自分の後ろを確認してみる。

 するとまさに俺の真後ろ、魔法陣の外側で一人の少女が尻もちをついたかのような体勢で、怪訝そうな表情で俺を見上げていた。

 透き通るような水色のミディアムボブに可愛らしいネコのバッジが付いた黒のカチューシャ。そして赤い羽織りを纏ったツリ目気味の……いかにもツンデレっぽい感じの少女。


 ふむ、この位置から察するにこのツンデレちゃんが俺を召喚した張本人と見て間違いないだろう。

 とりあえずこの子に色々聞いてみるか。


「……あ、あのさ。ちょっと確認したいんだけど、君が俺を召喚したって事で間違いない?」


 俺がこそっと小声で問いかけると、ツンデレちゃんは一瞬ビクッと体を震わせるもすぐに強気な表情を見せ、勢いよく立ち上がった。


「え、えぇ、そうよっ! この私が召喚してあげたんだから、か、感謝してよねっ!」


 おぉ、まさに王道ツンデレだ。

 だがしかし……


「いや、君が誰だか全く知らないし、急に召喚されても全く感謝できないんだけどさ。とりあえず呼び出したからにはちょっとこの状況を説明してくれないかツンデレラ」


「だ、誰がツンデレラよっ!? 私はそんな簡単にデレたりなんてしないんだからっ! っじゃなくてなんで貴方、私の事知らないのよっ? 私はあの『千年に一度の美少女召喚士』、ドゥルちゃんよっ!? 今をときめく超、超、超有名人なのに、知らないのっ?」


 ん、千年に一度の美少女?


「あぁ、もしかして橋本○奈ちゃん?」


「誰よそれっ!? って言うか今あんなにもメディアに引っ張りだこでCMにもバンバン出てるのに、本当に私の事知らないのっ?」


「んー、そう言われてもなぁ……」


 もしかしてこの子、召喚した張本人なのに俺がから来たと分かってないんだろうか?


「……まぁとりあえずそれは置いといてさ。で、これはどういう状況で、なんでツンデレラは俺を召喚したんだ?」


「だからツンデレラじゃなくてドゥルだってばっ! はぁ、全く……まぁ話せば長くなるんだけど……」


「できれば手短にお願いします」


「もぉ、仕方ないわね。さっきも言ったけど私は今、世界で一番有名な超人気美少女召喚士なの」


 ドゥルは目を細め、ゆっくりと語り始める。


「でね? ふと……無性にお寿司が食べたくなったのよ」


「……ん、なんかいきなり話が飛んだぞ?」


「やっぱり、お寿司と言えば日本じゃない?」


 俺のツッコミを華麗にスルーして話を続けるドゥル。


「だからこの春休みを利用して、お忍びで旅行に来たって訳。ほら、私って今や超有名人でしょ? もし来日してる事がバレでもしたら、日本のファン達に囲まれちゃってゆっくり旅行を堪能する事が出来ないでしょ? だからそこにいらっしゃるジャパニーズお姫様に頼んで、急遽無理言って来日したって訳」


「……ん、お姫様?」


 そう言って彼女が促したその先、よく殿様とかが座ってるようなその上段の間に佇む一人の女性へと視線を移した俺は、そこで自分の曇りなきまなこを疑う事になった。


 とても綺麗で艶やかな長い黒髪には宝玉とリボンが鮮やかに飾られていて、高価そうな黒の着物を纏い更にその上から純白の大きな羽織りに身を包んだ、とても高貴な雰囲気を放つ女性。



「……ら……蘭、子……?」



 姫様と呼ばれたその美しい女性の顔が……まさに蘭子に瓜二つだったからだ。


 そしてどうやら彼女もまた、俺の姿を見て先程の二人と同様にとても驚いているようで……その目を見開き驚愕したまま、ジッとこちらを見つめていた。


 俺はそのまま彼女と視線を交えながらも、未だ混乱した頭でなんとか言葉を捻り出す。



「……き、君の、名前は……?」



 とてもぎこちない俺の問いかけに、でも彼女は一瞬で思考を現実に引き戻す。

 表情を引き締め姿勢を正し、蘭子が一度も見せた事のないような、凛々しい佇まいでその口を開いた。



「……わたくしの名は星蘭せいらんと申します。この国の姫として、この日本を統治しております」



「……星、蘭……」


 蘭子の名前によく似た、でもやはり決定的に異なる目の前の女性の名前に……俺は酷く落胆する。


 ……は、はは、そうだよな。

 ここは俺がいた世界じゃない。ならいくら彼女に瓜二つだからって、本人なはずないじゃないか。

 それに俺の知ってる彼女は、こんなにも堂々とした立ち振る舞いなんて絶対に出来ない。

 人見知りで、いつもおどおどしてるような……そんな至って普通の、恥ずかしがり屋な女性だったのだから。


 早くも淡い期待を粉々に打ち砕かれしょげる俺に、今度は彼女からも質問が投げかけられた。


「……あの、わたくしも……貴方のお名前をお聞きしてもよろしいでしょうか?」


 多分、この俺の態度からきっと彼女もすでに答えは分かっているはず。自分の望みの答えなんて、返ってこないと言うことを。

 それでも、俺と同様に確認せずにはいられないんだろう。『もしかしたら』という、その僅かな希望に縋りたくて……。


 だから俺もはっきりと答えてあげる事にする。


 きっとこの世界にも俺にそっくりな奴がいて、でもきっと多分そいつはもう居なくて……だからこそ僅かな希望に縋る。

 でもそんな希望など、奇跡など、そんな簡単に叶うはずない。

 俺達のこの現実はそんなに甘くないという事を、きっと本当は彼女も分かっているのだろうから。



「……俺の名前は、勇騎です。霧島勇騎って、言います」



「……霧島、勇騎……。あっ、あの勇騎さんっ、その……『勇介ゆうすけ』と言う名前に、心当たりはございませんか?」


 ん、勇介? あぁ、それがこの世界の俺のそっくりさんの名前か……。


「いえ、すいませんが……」


「……あ、いえ、そう……ですよね」


 星蘭さんの表情が目に見えてとても悲しそうなものに変わる。そんな事はないと頭では分かっていたとしても、目の前に希望がチラつけば誰だって期待してしまうものだ。例えその後、辛い現実を突きつけられたとしても……。


 俺と星蘭さんの空気が伝染したのか、室内全体が静寂と重苦しい空気に包まれてしまう。


 ……だが、その沈黙をぶち壊すように突如、筋肉ん(仮)が俺に向けて威勢よく喋りかけてきた。


「……は、ははははは、おいおい、全くビビらせやがってよぉ。あ、いやまぁそんなビビっちゃいねぇけど、でも本気であの伝説の最強勇者が復活したのかと思ってちょっとだけビビちまったじゃねぇかよっ!」


「ん? それってやっぱり、ビビってたんじゃ?」


「は? いやいやいや、は? ビビってねぇよ?」


「いや、でもちょっとだけビビっちまったって……」


「ビビってねぇ」


「いや、でも……」


「ビビってねぇっつってんだろぉぉぉぉっ!? 良いじゃねぇかよっ、オレがビビってねぇってんだからよぉっ!? そこは空気読んでビビってないって事にしてくれりゃいいじゃねぇかっ! それが優しさってもんだろっ!? 思いやりってもんだろっ!? なぁっ? バファ○ンは半分も優しさで出来てるのに、なんでテメェはオレに優しくしてくれねぇんだよっ!? なぁっ!? もっと、もっとオレに優しくしてくれよっ! 半分とは言わねぇ、せめて、せめて三分の一、いや、四分の一でいいからよぉ、オレに……オレに優しさを見せてくれよぉ……っ、なぁ?」


 いきなりオギャり始める筋肉ん。

 激しく困惑する俺に向けて、「おい、どうすんだよこいつ」みたいな空気感が漂い始める。


 ……えぇ……ちょっと待って。俺のせい?

 いや、まぁ確かにちょっとツッコミ過ぎたとは思うけど、でもだからといってなんで俺が筋肉んに優しくしなくちゃいけないんだ?


 だがしかし、このまま放置という訳にも行かないだろう。俺は仕方なく筋肉んに出来るだけ優しく話しかける。


「……ごめん、ごめんな筋肉ん。確かに今のは俺が悪かったよな? 確かにちょっと配慮が欠けてたと思う。もうツッコミ入れないから、な? だから筋肉んもそろそろ落ち着いて……」


「いやちょっと待てっ!? まずオレはそんな『筋肉ん』とか言うふざけた名前じゃねーからっ!? オレは『新生魔王軍、七大悪魔』の一人で、『サタン』っていうカッコいい名前があるからっ! あんた明らかにオレのこの体型だけでそんな適当な名前付けたんだろっ、なぁっ!? テメェホントに謝る気あんのかよっ!?」


「……あ、いや、ははは。ま、まぁまぁそこまで怒らなくても。あだ名は大事だぞ筋肉ん。あだ名は友達とより仲良くなる為の有効な手段の一つなんだからさ」


「いやまずオレとテメェは友達じゃねぇしっ!? って言うかこっちはテメェが何者かさえ知らねぇしっ!」


「あ、あぁ、そうだったな。じゃ、まぁここはひとつ改めて、俺の名前は霧島勇騎。こことは違う別の世界でずっと教師やってたんだ。今は訳あってニートなんだけどさ、これからよろしくな、筋肉ん」


「「…………」」


 何故か皆、一様に黙りこくってしまい訪れる静寂。


 え? 何? 俺またなんか言っちゃいました?

 

 またやっちゃったのかと不安な気持ちに駆られる俺に、だけど筋肉んが驚きの様子で再びこの沈黙をぶち壊してくれる。


「……おいテメェ、教師って言ったか? だとしたらもしかしてテメェ……オレに、このオレに勉強を教える為にわざわざここに現れたっての言うのかっ!?」


「いやそんな訳ないだろ。何で見ず知らずの悪魔に勉強を教えなくちゃならないんだよ?」


「ほらきた、優しさ皆無っ! ならテメェは何しにここに現れたってんだよっ!?」


「いや、だからそんなの俺が聞きたいんだよっ! あ、そうだっ。結局何で俺を召喚したんだよツンデレラ。お忍びで日本に寿司を食べに来ただけなら、別に俺は要らなかっただろっ?」


「え、私の方にくるのっ!? じゃなくてドゥルだってばっ! って言うかちゃんとそこから続きがあったのよ。ちゃんと続きがっ」


「ふーん、続きねぇ。それで? 寿司を食べに来てどうしたんだよ?」


「え? えっとー、それでね? そこの軍のお爺ちゃんが超高級寿司店で出前を頼んでくれて……で、いざ「いただきます」って時にいきなり空間に『黒い穴』が開いて、そこからその筋肉んって人と後ろの痴女が現れたのよっ」


「いや、サタンだからっ、筋肉んじゃねぇからっ!」


「……ふむ、なるほどね」


「いや、なるほどね……じゃねぇからっ!? あんたのせいで変なあだ名が定着しちゃってるじゃねーかよこのクソ教師がっ!」


「つまり、高級寿司を狙って筋肉ん達が攻め込んで来たという訳だなっ!」


「違ぇーよっ! オレ達はその召喚士を連れ去りに来たんだよっ!」


「……ん? ツンデレラを? 何で?」


「だからドゥルだってばっ!」


「な、何でって、そりゃあ……って、んなの乙女の秘密に決まってんだろうがよっ!」


 なぜか急に乙女気分になった筋肉んは、プイッと口を固く閉ざしてしまった。


 まぁ、とりあえずここまでの会話のキャッチボールでだいたいの流れは分かった。

 つまり何らかの理由でドゥルが狙われていて、その客人を守る為に軍のお爺さんが立ちはだかっていたという訳か……。


 俺は少しだけ思考した後、筋肉んを見据えながらドゥルに問いかける。


「……なぁ、ドゥル」


「だからドゥルだって……って、あれ? 合ってる……」


「君はこのスーパーピンチを打破する為に、俺を召喚したって事で間違いないか?」


「え、えぇ。まぁそうだけど……」


「だよな。でもさ……俺、全然戦えない訳なんだけど……」


「……え?」


「え?」


「「…………」」


 一体何度訪れたら気が済むんだと言われかねないレベルで、再三にわたり訪れる静寂。

 しかし今回はすぐさま我に返ったドゥルが勢いよく俺のTシャツの裾を引っ張りながら猛抗議を始めてくれた。


「え、あなた剣術や魔術のエキスパートとかで、それを生徒達に教えるセンセーとかじゃないのっ!? それで実は戦闘のスペシャリストで、俺TUEEEEでチートで無双とか出来るんでしょっ!?」


「そんな事、普通の世界の教師に出来る訳ないだろ。君、ラノベの読み過ぎじゃないのか?」


「そ、そんな……私、ちゃんとこの世界で一番強い人って願いながら召喚したのに……なのに出てきたのが何の力もないただの普通のセンセーだなんて。そんなの、そんなのただの村人Aを召喚したようなものじゃない……」


「いや、確かに能力的には村人レベルだけどそうはっきり言われるとなんか傷つくなぁ……」


 うなだれるようにその場で落ち込むドゥル。


 ……なるほど。

 つまり彼女の召喚は何らかの理由で失敗してしまい、単純に俺は間違って召喚されてしまったという事か。

 さて、ここまで踏まえた上でここから俺が取るべき選択は……


「まあまあ、うなだれるのはまだ早いさ」


「……? センセー?」


 俺はドゥルを起こしてから、そして立ちはだかるように筋肉んに向き直る。


「……へぇ? まさか何の力も無い癖にオレと戦うつもりかい、先生よぉ?」


「まあな。確かに俺には何の力も無いけど、それでもこの状況でこの子を見捨てて逃げるような奴は……教師失格である前に、人間的に失格だからな」


「……セ、センセー」


 ……それに、この状況じゃに被害が及ばないとも限らない。

 俺は心配そうにこの状況を見守る星蘭さんを横目で見つめる。蘭子にそっくりで、でも決して蘭子ではない……そんな彼女を。


 そう、例え彼女が俺の知っている彼女でなくても……それでも俺は、彼女に降りかかるかもしれない火の粉は何としてでもふり払わなければいけない。



 例えそれが、ただの俺の自己満足だったとしても。



 すると急にお爺さんが俺の名前を呼ぶ。


「のう、勇騎とやら」


「ん? っうわっ、とと、」


 そして腰に刺していた白い刀を俺の方へと投げ渡してくれる。


「手伝ってくれるのはありがたいが、丸腰では何もできんじゃろうて。とりあえずその刀を使うがいい」


「あ、ありがとうございます。お爺さん」


 と、まぁ受け取ったはいいが刀なんか勿論一度も使った事はない。

 まぁでもこっちは二人がかりな訳だし、いくら筋肉んがむきむきだろうと多分何とかなるんじゃないだろうか。

 後ろのエッチなお姉さんは動く気配がまるでないみたいだし、多分見た感じ戦闘要員じゃないだろう。


 なんとか脳内で考えをまとめながら俺はとりあえず刀を抜く。



 だけどその瞬間ーー



 突如なんとも言えない不思議な感覚が体全身を包み込んだ。


 ……な、なんだ? 体がとても軽い。それに物凄く刀が手に馴染む。

 まるでずっとこの刀で戦ってきたかのような、どこか懐かしい感覚。

 今ならどんな奴とでも戦えそうなくらいに、体に力が湧いてくる。この刀の扱い方が、戦い方がなぜか手に取るように分かる。


 これなら……これなら本当にやれるかも知れない。

 ……けど、やはり念には念を入れとくか。


「ドゥル、ちょっと……」


「な、なによ?」


 俺はドゥルの耳元で咄嗟に思い付いた作戦をごにょごにょと告げる。


「え、えぇっ!? む、無理無理っ。私そんなのやったことないし、自信ないわよっ?」


「大丈夫だって、あくまで保険だしさ。それに『千年に一度の美少女召喚士』なんだろ? だから、な? いざって時は頼むよ」


「うぅ〜、……もぅ、わかったわよっ。一応やってみるけど、失敗しても怒らないでよね?」


 渋々ながらも承諾してくれたドゥルに感謝しつつ、俺は再び筋肉んに向き合い、



 同時に俺は一瞬で筋肉んとの距離を詰め、先制攻撃で刀を振るった。


「ギィィィンッ!!」


 ……しかし筋肉んは寸前の所でシャベルにより俺の攻撃を見事防ぎ、刀とシャベルのぶつかり合った衝撃音が大広間に響き渡る。


 くそ、……奇襲作戦失敗か。


 俺の悔しそうな表情を見て、筋肉んは不敵な笑みを浮かべながらシャベルに力を込めてくる。


「ふ、くくく……いいねぇ、嫌いじゃないぜそういうの。んじゃまぁ始めるとしますか、先生よぉっっ!!」


「あぁ、筋肉んっ! 今からお前に道徳の授業を叩き込んでやるさっ!!」


 その一撃を皮切りに俺と筋肉んは互いに連続で攻撃を繰り出し始める。

 刀とシャベルがひたすらにぶつかり合い、何度も何度も火花を散らしあう。

 ギリギリの所で相手の攻撃をかわしながらノータイムで刀を振るい続ける。だがその全てがシャベルによって弾かれ攻撃が全く届かない。


 ……くっ、このガタイなのにこのスピード、やるな筋肉んっ!


 どちらも一歩も引かないまま、大広間には金属同士のぶつかり合う音だけが鳴り響き続けた。

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