記憶

1

 約束して、と那月は言った。

 僕等が暮らす街を一番良く見渡すことの出来る校舎の屋上。

 夕暮れ時の、真っ赤な空気。

 明日には宇宙へ旅立とうというその時、僕は彼女と約束を交わした。


「幸せになること。私もそれを目指す」


 だから約束して、と那月は言った。

 何が幸せで、どうすれば幸せになれるのかずっと分からなかった。

 分からないけれど、でも僕は「分かった」と言って彼女と約束をした。

「絶対よ」と、そう言って不器用に笑う彼女の顔が、僕の中に居る彼女の最後となり、彼女との記憶はそこで途絶えた。

 宇宙船が、雪の降る灰色の空の向こうへと旅立って行く。

 彼女を乗せた鉄屑が、遥か遠くへと旅立った。

 分からないまま、時間だけが過ぎ去って。

 ネウロはパウラと出会った。

 ネウロがパウラと共にあった日々を思い出す。

 アキが那月と共にあった日々を思い出す。

 産まれて、名付けられて、生きて、出会って。

 分かるまで、随分と時間がかかってしまった。


「……」


 地続きであること。

 分かち合ったこと。

 誰かが誰かである所以がそこにある。

 僕が僕である所以がそこにある。

 ここに記憶がある限り。

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