二人組の夜

阿礼 泣素

第1話「人生喪失」

二人組ペアを作りなさい」

 僕はその言葉が嫌いだった。誰に頼れば良いか分からなかったからだ。自分は友達だと思っていても、相手はそう思っていないかもしれない。そう思うと自分から誰かに声を掛けることができなかった。

 次々と周りの人間が自然と凝集していく。S極とN極みたいに、まるで最初から引き合うことが、決定していたかのように。

皆うまくやっている。近くにいただけなのに、お互い示し合わせたかのように無言で頷き、その場に腰を下ろす。あっという間にその場しのぎの関係が構築されていく。 


 その場限りの関係、上辺だけの簡素な契約、たかが五分程度一緒になるだけだ。誰でも本当は良いはずなのに、みんな選り好みして、自分と釣り合う関係を瞬時に判断する。静寂の中で行われるそれは、いつも残酷な現実を露呈させる。

 いつものように自分だけが取り残された。皆が僕の方を見遣る。どうして君だけ一人なの、瞳が嘲笑しているような気がした。

「……じゃあ、一藤木いっとうぎ君は先生と一緒にしましょうか……」

 先生の憐憫の情が伝わってくる。また残ったのは君か。惨めになる。自分だって好きで余ったわけじゃない。

 どうして皆そうやってすぐに二人組が作れるのだろうか。自分はいつも余りものだ。お荷物だ、必要とされていないんだ。

 だから、こんなゴミ、処分された……

「うぐッ……あがッ……」

 慟哭、凄絶な痛み、錆びた心に突き刺さる鋭利な刃。喉元を容赦なく掻き切られる。溢れ出る血液、僕の名を呼ぶ誰か。悲しくなんてなかった。死んでも良いと思っていたから。意識の喪失、これが死ぬと言うこと。

「…………」

 この日、一藤木蒼夜いっとうぎそうや人生喪失ログアウトした。


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