phase20.藤崎颯音VS黒霧當麻

「死ぬ気で来いよ。じゃないと死ぬぞ。」

「死にたくないんで、多少は本気でやるよ。」


二人は沈黙の中視線はいまだに火花を散らしている。

颯音が固唾を飲んだ瞬間、視界から黒霧が消えていた。


「な!?」

「ふん。お前はやっぱり素人か。」


黒霧はいつの間にか颯音の懐にいた。

全力で振るった拳が颯音の顔面向け、下から突き上げた。

颯音は間一髪でそれを後退して避けた。


「あっぶねえ。」

「一回避けただけで満足してると、一瞬で刈り取られんぞトーシロー。」


まるでラッシュのごとく繰り出される攻撃に颯音はギリギリ避けていった。

壁際に迫られ、黒霧の真正面からのパンチを側面に退避して避けた。

黒霧の拳は壁にめり込み、壁に亀裂を生じさせた。


「本気で頭潰す気かよ。」

「言ったじゃねえか。死ぬ気で来ないと死ぬってよお。」

「くそ、こんだけ攻撃されてたら発動に集中する余力がない……。」


颯音の息はすでに上がっていた。

額から垂れてくる汗をぬぐい、必死に集中する。


「くそ、この前みたいに、イメージ、イメージ……くっ!」


颯音の集中を待つことなく黒霧の攻撃は続いた。


「お前、まだ俺は能力を発動しただけで、一切顕現してねえんだぞ。」

「くそ、厄介な奴め。そもそも俺は昨日能力の発動と顕現を一度しかやってねえんだよ!」

「それがなんだよ。即自警団加入が気に食わねえんだよ。」

「俺も本意じゃないって!」


黒霧の攻撃はなお続く。


「お前、まさかこの速度が本来の速度だと思ってんのか。」

「どうせ素人仕様に合わせてたんだろ……。」

「じゃあお前、能力を発動してみろ。待ってやる。」

「は?」


黒霧は攻撃の手を止めた。


「早く発動しろって言ってんだよ。素人相手に滅多打ちすんのも気が引けんだよ。」

「今更慈悲かよ。結構こっちはへとへとなんだけど。」

「いいから早く発動しろ。対等の条件で殴り合った方がいい。」

「お前なりの優しさと受け取っておくよ。」


颯音は目を瞑り、集中した。

心の器、解放、覚醒。


そして数秒後、颯音の体をほのかに光が包んでいく。

ゆっくり颯音は目を開けた。


能力の発動、覚醒に到達した。


「待たせたな。お前が見たかったものはこれか?」

「別に見たいわけじゃねえが、これで条件は対等だな。今度はいつも通りやらせてもらうぞ。」

「来い!」


颯音が構える。

身体の光がより一層強くなった。


(俺は今能力が発動している。自分は強いことを常にイメージして、想像を顕現するんだ。この拳は、相手に響くつええ拳だ……。)


颯音は心の中で言い聞かせ、能力の維持に努めた。

だが、それに集中してしまい、またもや一瞬で間合いを詰められた。


「お前、まさか瞑想しながら戦うつもりじゃねえよな。」

「うぐっ!」


今度のパンチは視認することが出来なかった。

颯音は真横に倒れた。

口元から流れてきた血を手で拭い、起き上がる。


「くそ、速い、これが本来の速さってか!」

「まだだ。」


黒霧の先ほどとはくらべものにもならない高速の攻撃によけつつも大半を食らってしまう。だが、能力を発現しているのでそれほどのダメージは負っていなかった。


「防御は大丈夫だ。本能的に発現してる。あとは攻撃……。」


颯音は攻撃に転じようと黒霧の攻撃を当たるギリギリでよけ、腕をつかんだ。

黒霧は掴まれた腕を自分の方へ引っ張った。

それでも颯音は腕を握り離さない。


「俺だって、やりゃあできんだよ!!!」


もう一方の腕を全力でふるい、黒霧の腹に思いっきりパンチを決めた。

だが、黒霧はびくともしなかった。


「おいおい、まさかそんなヘボパンチで俺をノックアウトできると思ってんのか。」


黒霧は颯音の拳を当たる瞬間にもう片方の腕で受け止めていた。

一瞬の隙をついて掴まれていた腕を振りほどき、颯音の顔面に強烈なストレートを決め、地面に叩きつけるように颯音の顔面を下にめり込ませた。

辺りは埃が舞い、煙が漂った。


「おい、そんな三下能力でやっていけると思ってんのか。」

「がはっ!」


颯音は鼻血を出し、口内の血を吐いた。


「てめえ、俺ら舐めてんのか。」

「別に、舐めてなんかねえよ。ただ、俺は……ぐふっ」


無理やり胸ぐらをつかまれて上体を起こされた。


「お前余り舐めたことしてるとお前だけじゃなくて、お前の親、友達にも手に掛けてやんぞ。」

「なん……だと。」

「お前のそのへぼい力で誰かを守ろうってんならやってみろよ。容赦なくお前の周りの人間をぶっ潰してやる。」

「そんなことしたら……一生許さねえぞ。」


次第に颯音の中に怒りがこみあげてくる。


「そうだそうだ、もっと怒れよ。そうすりゃもう少しまともな力が出るだろうがよう。」

「て、てめえ……。」


颯音は刃のような視線を黒霧に向け、怒りの表情を浮かべた。


「ぶっ飛ばしてやる……!」


すると、颯音を掴んでいたはずの黒霧がものすごいスピードで後方に吹っ飛んだ。

体勢を取り戻し、踵を返す。


「ほう、やっとやる気になったかよ、ノロマ。」

「お前、さっきの言ったことが本意なら、絶対許さない。」

「そうだよ本意だよ。俺はお前みたいななあなあで生きてるクソ野郎が嫌いなんだよ。」


すると黒霧の体表から黒いオーラのようなものが出てきた。


「俺がそんなクソ見たいな人間関係も何もかも断ち切ってやるよ。」


オーラが次第に刃に変わる。


「な、何だアレ。」


颯音は見たこともない光景を目の当たりにし、唖然とした。


「俺の顕現は『切断』。あらゆるものを切断する。」

「切断……。」


そこで颯音は思い出した。

顕現、それは想像。

脳内で想像したものが現実のものと化し、それを持って戦うのが主体。

そしてその想像するものは、発動した本人の性格などに依存されやすい。

つまり、彼が顕現したのは彼の性格の由来である人との関わりを嫌う性質。

それが刃となって顕現したのだ。

”本人の心の意志の強さ、弱さによる。”


横谷から教えてもらった通りだった。

顕現されたものはいわばその人の心の形。

それに由来する形状をしている。


「お前は刃物。そうやって他者との干渉を避けて関係を持つことを嫌ってんのかよ。」

「それがどうしたよ。」

「なら俺はお前のそういう黒い部分も、受け入れて、救ってやるよ。」

「はあ、何言ってんだか。俺は別に助けを求めてねえし、この能力を受容している。今更他人に助けてもらう余地はねえよ。」

「ならその刃は何だよ。人と関わるのが怖いから、関係を断ち切りたくてそうなってんだろ。」

「馬鹿ぬかしてんじゃねえよ!」


腕にまとい、巨大などす黒い刀身を颯音に振りかざす。

颯音は身体能力の向上を利用して高くジャンプし斬撃を回避した。

ホールの天井の支柱に掴まり、ぶら下がる。


「段々この状態になれてきたかもしれない。」

「くそ、ちょこまか逃げやがって。」


そして黒霧もジャンプし、颯音へ追撃した。

支柱はスッパリ切れ、金属音と共に落下した。


「おいおいここ施設だろ? そう簡単に壊していいのかよ。」

「口開く暇あるなら集中しろ。」


すかさず刀身の形状を変え、細い刀と化し、身軽そうに振りかざす。

颯音は身構えていた。


「俺も顕現するぜ。俺は皆を守る光になる。どんな悪も、運命も、この力を持った意味を知るその時まで、この力は皆を守るために使う。だから……。」


颯音の拳が急に光り輝く。


「俺は、負けないぜ。」


まぶしい光と共に、颯音の目が黄金に輝く。

まるで温かい、そして鋭い光は颯音の全身を包んだ。


「はあああああ!!!」


颯音は叫び声と同時に拳を固く握り、黒霧の方へ突進した。


「わざわざ切られに来るなんて、ついに頭でもバグったかあ?いいぜ。これでしまいだ。」


黒霧は全身全霊の力で颯音に凶刃を振るった。

颯音はそれを体全身で瞬間的に避け、黒い刀身を素手で捉えた。


「ほら、切れない。」


そして刀身を握力のみで粉砕した。

黄金色に輝く腕が、黒いオーラを白に浄化していく。


「俺の顕現が、破られた……。」

「まあ、俺も初めてこんなもん出したから何も言えんけどさ。とどのつまり、俺は仲良くしたいだけなのよ。淀んだ雰囲気のままとか俺嫌だし。」

「ちっ、聞いた話通り、お前は得体のしれないやつだったな。」

「俺自身も把握してないから。」


そして颯音の体から、纏っていた光が消えていった。




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