phase19.散らす火花
研究所での出来事から2日後。
颯音はまた研究所に訪れていた。
「おはようございます。早いですね。」
「いや、まあ。あいつからのコールがうるさすぎて。」
「西宮さんには何度もお灸を据えたつもりですが……。すみません。」
「いえ、大丈夫です。多分次同じことしたら着拒するんで。」
そして二人は研究所に入った。
多目的ホールに行くと、準備運動をしている西宮がいた。
「お、来たなヒーロー!おっす!」
「これがこの前俺を奇襲した人とは思えないこの何とも言えん感じ。」
「朝一からねちねち考えるなよ。」
「いや、あれまともに喰らってたら五体満足じゃなかったかもしれないから。」
そして颯音はポケットからスマホを取り出した。
「あと! 早朝から連続コールしないでくれ! 非常識だ!」
「つっても。」
「そのために連絡先を教えたんじゃない! お陰でスマホの充電これだけしかないっすよ!」
「それは充電刺してないお前が悪いだろ。」
「昨日刺して寝たはず。あ、多分寝相悪くて抜けたんだ。」
颯音は頭を抱えてうなだれた。
「それはそうと。力の扱いに大分慣れてきたころだろ。」
「いやまだ一回しか。」
「いや、慣れているはずだ。」
「聞いてくれん……。」
颯音は軽くため息をする。
「あの、今日たまたま学校が休みだから来ましたけど、俺まじでその、自警団には席しかおきませんから。学校がある日は普通に学校に行きます。」
「だからそれでいいよ。その代わり、お前が学校守れよ。」
「え……。」
(俺が言ったこと全然わかってねえ。)
「なあに、一人でとは言わんよ。もちろん、他にもいるさ。お前ら―。」
そして西宮の呼びかけに応じたかのように奥から3人ほど来た。
「紹介するぜ、右から
3人は軽く会釈した。
「見ない顔ってことは同じクラスじゃないな。どんだけ大人しくしてたんだお前ら。全く身に覚えがないぞ。」
「それはお前が周囲に関心がなかったのだろう。」
堺はゆっくりと口を開いた。
堺は身長が高く、大人びた風貌をしている。
髪は短髪でメガネをかけている。
「私のことホントに知らないの?」
引石も次いで颯音に問い詰める。
茶髪で長さが肩より少し長いくらいのストレートヘアで華奢な体格である。
「茶髪?うちの校則引っかかるんじゃ?」
「元水泳部とか言っといてあるのでセーフなのです!」
「ウソかよ……。」
そして黒霧が重々しい口を開いた。
「なれ合いは他所でしやがれ。横谷、用件を言え。」
そして後ろから横谷がやってきた。
「はい。最近傷害事件を起こしていると噂されている人物がいます。名前は
「ちょっと質問。」
颯音が手を挙げた。
「俺ってそれ参加?」
「颯音君も同行していただけたらと思います。」
「え、本当に? 怖いんだけど普通に。犯人って俺らが捕まえるの?」
「警察は普通の犯人なら対応できます。ですが、能力を宿した犯人にはまだ対応が出来ていません。そこで我らハーツ自警団の出番です。」
「出番って。報酬とかもらえるの?」
「もちろんです。」
「え、お金?」
一瞬颯音の顔がゲス顔になった。
「まあ食いつくことでしょう。そうです。いくらかは報酬としていただいております。成功報酬として皆様にも分配しています。」
「え、ほんと?」
「ただし条件があります。親から許可を取ってください。バイトの類の口実で許可を取ってもらいます。なんせ報酬を受け取るわけですから。学生の身分でお金稼ぎをしていると万が一ばれたらまずいので。」
「まずいの?」
「はい。色々と面倒なことがあるんです。言い訳がつかないんです。」
「あー。この事ってまだ世間にも浸透してないし、こういうことやってまーすって声を大に言えないことだもんな。」
「ま、そういうことです。」
「分かった、今日親に言ってみますわ。」
「ご理解いただけたようで何よりです。」
そして横谷は説明を続けた。
「万が一怪我をしても心配はありません。当研究施設で万全の治療を施すことが出来ます。自警団活動においての治療の費用は一切かかりません。たとえ入院することになっても、手術することになっても費用は掛かりません。」
「それって、安心していいのか分からない。」
颯音は気難しそうな顔をした。
「必要な情報は以上です。それでは任務内でもコミュニケーションが取れるようにワイヤレスイヤホン型通信機をお渡しします。」
そう言って四人に順番にイヤホンを手渡す。
「これで説明は以上です。決行は今夜19時。よろしくお願いします。」
「はい。」
みんなは返事をした。
それを聞いた横谷は研究所へ戻った。
「時間はまだ15時か。」
颯音は腕時計を見た。
任務決行まであと2時間弱。
「あ、俺いわゆる新人か。改めまして、藤崎颯音です。好きな食べ物はキウイです。よろしくお願いします!」
「そこまで改まらなくてもいいでしょう。よろしく。」
堺はメガネをくいっと上げ、改めて挨拶した。
そして引石が颯音の肩をポンッと叩いた。
「キウイ君だね。」
「え?」
「いや、好きな食べ物がキウイってなかなか聞かないからさ。」
「そんなにみんなキウイ嫌い?」
「いや、好き嫌いというより、自己紹介で好きな食べ物にキウイを出す人の方が珍しいかなって。」
「あー確かに。でも、自分が好きなものに嘘つきたくないんで。ほんとに好きなんです、キウイ。」
「ぷふ。普通に笑っちゃう、ごめんね。君面白いや。楽しくなりそうね。」
「俺そんなにおかしいこと言った? キウイ好きとしか言ってないよ?」
「ま、よろしく。あ、ちなみに。」
そう言って引石は颯音に耳打ちをした。
「黒霧はちょっと小難しい子だからあまり慣れ慣れしくしないほうがいいよ。」
「ふーん。つっても俺そういうのもやっとするし、試してみるわ。」
そして颯音は皆と少し離れたところに一人ぽつんといる黒霧に近づいた。
「よろしくな。」
颯音は手を差し伸べた。
すると、黒霧はその手を勢いよく払った。
「何を求めてやがる。馴れ合いか?」
「いやいや、これから共に協力し合う仲じゃないか。」
「協力? ふざけんな。」
黒霧が颯音に向かって攻撃的な姿勢を向ける。
そしてまるでこれから戦うかのような、殺意の眼差しを向ける。
「お前の手の内も知らねえで協力もクソもあったもんじゃねえよな。」
「あー確かに……。え、やり合うってこと?」
「当たり前だろ。お前が本当にこの組織に所属するに値するかどうか。」
「見定めってやつか。参ったなこりゃ。まだノウハウ知らないんだけどなあ。」
そしてその気配を察知した二人も近づいてくる。
「ちょっと何してんの? 馬鹿な真似は止めてよね!」
引石が注意を呼び掛けた。
だが黒霧は一向に姿勢を崩さない。
後ろから西宮が様子を見に来た。
「こうなることも予想済みだ。万が一になったら俺が止めに入る。このまま見守っててくれ。」
「つってもまだ藤崎は能力の顕現もやっとできたくらいなんでしょう?」
堺が今にも止めに入りたそうにしている。
「まあ、これは藤崎にとっても試練だな。」
西宮がまっすぐに颯音の方を見つめる。
颯音はどうすればいいか狼狽していた。
「ちっ、まだ感覚のかの字も掴めてないっていうのに。」
「いくぞ、にわか仕込みの馬鹿野郎。」
黒霧が颯音との距離をグイッと縮めた。
ここで突発であるが颯音と黒霧の戦いが始まった。
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