第26話 二人の世界…… その1

「えっ……手ですか!?」

「さくらさん……」


「はい!」

「颯太さん。体のスキンシップも大事ですよ♪」


 くったくのない、晴れやかな表情で言う桜坂さん。

 それは、今日一番の笑顔で有った!!


(……これは、手を繋ぐしか無いな)

(中身は男性でも、これだけの笑顔をされてしまったら、もう異性なんて関係ない!!)


「あっ♪」


 俺が桜坂さんの右手を掴んだ時、弾んだ声を上げる桜坂さん。

 それを見ていて、微笑む朱里さん。

 理性より本能が勝ってしまった!!


「颯太さんも……私を求めているようですね…!///」

「嬉しいです!♪」


 桜坂さんの中身は男性なのに、本当に女性のような雰囲気を醸し始める!?


「うっ、うん……!」


「あらら、これは本当のカップルに成るかもね♪」

「今はひらけた時代だから、良いカップルに成れるわよ。お二人さん♪」


 朱里さんは笑顔で、俺と桜坂さんを見つめながら嬉しそうに言う。

 桜坂さんが男性と学生で無ければ、そのまま俺は桜坂さんを、ホテルに連れ込んでいるに違いない!!


「二人とも気を付けてね~~~♪」

「またのご来店をお待ちしております~~♪」

「さくらちゃん、バイバイ~~♪」


 陽気な声を出す朱里さんに見送られて、俺と桜坂さんは喫茶店を出る。

 俺は桜坂さんの手を繋いだまま、歩きながら話し掛ける。


「今日は……これでオフ会は終わりだよね…」

「さくらさん…」


 俺が名残惜しそうに聞くと、桜坂さんも寂しそうな表情と声で話し始める。

 少し遠くからは、波の音が聞こえてくる。


「はい……。そう成ります、颯太さん」

「次の場所は用意して有りませんし、余り遅くなると両親が心配します」

「なんだかんだで、両親は私の事を見捨てては居ませんから……」


(さくらさんは、まだ学生だからな)

(未成年を夜連れ回すのは、不味いとネットで聞いた事が有る)

(俺が後出来るのは、さくらさんを自宅付近まで送る事位だが、どう答えるのだろう?)


 俺も桜坂さんとは恋人関係に成ったし、桜坂さんは俺を求めている。

 ここで『桜坂さんの自宅まで送るよ!』と言ったら、桜坂さんは多分賛同するだろう。


「……」


「……///」


 お互い無意識に立ち止まり、無言の時間が急に訪れる。

 折角繋いだ、手も離してしまった。

 時間は17時過ぎだが、まだ日差しは高く、これでオフ会を終わらすのは、お互いがまだ早いと感じ始めていた。


 波の音と車の通過音だけが、響く世界に成っていた……

 俺が思い切って、桜坂さんに声を掛ける前に、桜坂さんが恥ずかしそうな声で掛けてきた。


「あっ、あの……颯太さん///」

「いやで無ければ帰り、颯太さんの車で送って貰えませんか!///」

「バス代も安くは無いし……それに、路線バスの便数も多い訳では有りませんから//////」


 桜坂さん自らが俺の元に飛び込んで来た。

 中身は男性だが、外見は本当の美少女!!

 そして……俺も、本当に同性なのか、さくらさんの身体確認もしたく成ってきていた。

 これで女性だったら、俺は本能に突っ走るだろう……


(俺の車は軽自動車だが、後部座席もキチンと有るタイプだ!)

(よこしまな気持ちが有る訳では無いが、男として桜坂さんの体を知る必要が有る!)


「あっ、あの……颯太さん…?」


 俺が直ぐに返事をしないから、桜坂さんは戸惑い始める。

 俺はここで意を決して、桜坂さんに言う。


「……さくらさん」

「俺も帰りは、さくらさんを自宅まで送ろうと考えていましたが……、少し車内で二人の時間を過ごしませんか?」


「この喫茶店はもう閉店していますから、駐車場に車は入って来ませんし、朱里さんの停めて有る車の場所とは距離が有ります」

「お互いが求めて居るのでしたら……少し求めませんか…?」


「……//////」


 桜坂さんは顔面を真っ赤にして俯いてしまう!!

 俺が桜坂さんを今日求めて来るのは、予想外だったはずだ。


(少しいそぎすぎたかな……)

(けど、気軽に会える距離では無いし、桜坂さんが何処まで本気なのか知りたい!)


 しばらく俯いたままで有った桜坂さんだが、決意を固めたらしく、俺の方に顔を上げ、静かな口調で話し始めた……

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