第3話 煙
繁華街の夜。所狭しと建物が立ち並び、街灯や看板の光が必要以上に辺りを照らす。
道端ではたくさんの男女がにぎやかに会話している。「羽目を外す」という言葉のお手本のような人たちばかりだ。
美弥子は静かにその人混みを避けながら歩く。幾人もの人に声をかけられるが一切相手にしない。ターゲットがいると思われるもとへと急ぐ。
見つけた。女に声をかける25くらいの男。この場所、ポケットに薔薇を飾った銀色のキラキラしたスーツ、緑の長髪、夜なのにサングラスをしている。本部からの情報とマッチする。完全ではないがおそらくターゲットと思われる。パーセンテージにして78%くらいだろう。話かけた女に無視されそそくさとその場を離れようとするその男の様子をみて素早く近づき軽く手をふれ確認する。間違えないことを確認し実行に移す。
「ごめんください。」
急に話かれられたせいか、男は不思議そうにしている。あまり相手に話しかけられることはないのだろう。
「へい。なんだい。きれいな女性に話かれられて照れちゃうなあ。」
「あら、それは良かったわね。伸行さん。間違えないかしら?」
「僕の名前知っているなんて、以前に会ったことがあったかな。君は誰だい。」
「ちょっとこちらへ。」
美弥子はビルの隙間の人目のつかない場所へと伸行を手招き、話を切り出す。
「残念なのですが、あなたには消えてもらうことになりました。」
「は、はあ?」
「見に覚えはございませんか?」
伸行は深刻な顔つきへと変わる。
「女性をたくみな言葉で誘い、業者に紹介。これは違反行為です。お分かりですよね。」
「さ、さあ、なんのこと言ってるんだか。」
「あなたに容疑がかかり、それから数日調べた結果、ほぼウラが取れております。惚けるおつもりで?」
「なんだよ。そのほぼって。確かな証拠はあるのかよ?」
「提示がご希望でしたら提示しますが?ご確認されますか?」
「なっ、何を。」
「被害者から伸行さんへの直接のクレームも数件受けておりますが、よろしければお聞きになりますか?」
「・・・」
言葉に詰まっている。間違えない。
「再度お伝えします。あなたの行いは完全なる悪事です。肝に命じるように。」
美弥子はそう伝えると手にピストルを構え、次の瞬間、伸行の頭を素早く撃ち抜いた。ヒュッと言う空気を切る音とともに伸行は何も発すること無くその場に仰向け倒れた。煙が静かに暗闇へと消えてゆく。
「お仕事完了!」
美弥子はそうつぶやきながら、またネオンが輝く道へと出た。
繁華街を真っ直ぐ歩いた先には小さな神社がある。こんなところに神社なんて不釣り合いだと思う。何段もある階段を上ると、灰色の小さな鳥居の先に小さな神社がポツンと建っている。優しく鈴を鳴らし手を合わせ祈る。この世界が安全で平和で純粋な愛に満ちた世界でありますように。
高台から、繁華街とは反対側の森の方を眺める。
静かな森。きれいな月の光に風花のような何かが反射し、星のようにキラキラと輝く。その遠くの方には小さな花火が打ち上げられている。良く耳を済ますと音が聞こえる。
「あら?」
見た先の森の上に、小さい少女が飛んでいるように見えた。木の上をクルッと月のまんまるに合わせて一回転すると、そのまま森の中へと消えていく。
「久しぶりに見たわ。ってことは、まだあの男は生きているってことね。」
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