戦国武将【島左近】配下の忍びと共に異世界に転生する!「旧題:異世界転生【島左近】」
マキシム
転生前(前日譚)編
第0話:島左近と颯馬与一の出会い
島左近と颯馬与一が戦死して異世界へ行く前の戦国時代、時は天正9年(1581年)、伊賀国にて第二次天正伊賀の乱が起きたのである。北畠信意【後の織田信雄】を総大将とした総勢5万の大軍が押し寄せた。その中に筒井順慶の下で兵を率いた武将、島左近清興の姿もあった
「かかれえええええ!」
伊賀側の方は持ち前の忍びの術と地の利を生かして、織田軍を大いに苦しめた。その中に伊賀者として活動していた颯馬与一も含まれていた
「ぐああ!」
「ぎゃあ!」
「くそ、忍び風情が!」
「ふん。」
「ぐは。」
颯馬与一は騎馬武者に手裏剣を放ち、仕留めた。軽々とした身のこなしで騎馬武者を翻弄させ、馬乗りになった後、仕留めた
「敵は北畠信意(きたばたけのぶおき)!」
与一は伊賀者しか知らない獣道を使い、織田軍総大将である北畠信意を討ち取る手筈であった。与一が獣道を使って、北畠信意の下へ向かう道中、1本の矢が与一目掛けて飛んで来た
「う。」
与一は寸前で速度を止め、矢が放たれた方向を向くと、そこには矢を放った島左近清興の姿があった
「伊賀者だな。」
「くっ。」
与一は手裏剣を島左近に向けて投げたが、左近は刀で巧みに防いだ。左近付の武者が与一に向かい突撃したが、与一は持っていた煙玉を使い、その場を逃走した。武者たちは「ゲホッ、ゲホッ」と咳き込みながら例の伊賀者【颯馬与一】を探したが姿形が無くなっていた
「この先は北畠左近衛権中将の陣に繋がるな。伝令を伝えよ!」
与一は島左近等の妨害もあったが、ようやく敵総大将の陣営に辿り着いた
「あれが敵の大将の陣営。」
与一は仕掛けようとした瞬間、敵方の伝令が陣に駆け込むと、馬廻衆が陣営を囲むように警備を厳重にした。これには与一も迂闊に手が出せなくなり、口惜しつつも、その場を去ったのである。それから時が経過し、数の暴力で伊賀の里は火の海と化し、男は殺され、若い女は兵たちによって慰み物にされた。与一はというと負傷した仲間と子供たちと共に洞穴に隠れていた
「おじちゃん。」
「大丈夫だから静かにしておれ。」
すると洞穴の近くに島左近等の筒井軍が近付いてきた
「左近殿、あの洞穴が怪しゅうござるな。」
「うむ、某が調べる、何かあったら頼むぞ。」
「承知。」
洞穴の中にいた与一たちは洞穴の向こうから敵兵の声がして警戒を強めた。手裏剣を使い果たした与一は忍刀を手に持ち、警戒すると洞穴を覗いたのは、例の武者【島左近】であった。島左近も洞穴の中に先程の伊賀者【颯馬与一】と負傷した伊賀者、そして年端もいかない童の姿を見た。左近が警戒していると背後にいる仲間から声をかけられた
「左近殿、誰かいたか。」
「・・・・いや、誰もおらん、蜘蛛の巣だらけだ。」
そうすると左近は洞穴から出た。中にいた与一たちは驚きつつも、警戒を続けた。すると外では味方の1人が確認のために中を覗こうとした瞬間の左近が止めに入った
「某の目が信じられぬと申すのか?」
「一応、念のために。」
「この島左近清興、武士にあるまじき振る舞いをした事は一度足りともない!もしお疑いなら某を斬ってから通れ!」
島左近の並々ならぬ気迫に流石の味方もそれ以上は踏み込めず、他へと向かった。島左近は洞穴の方へ向いた後、そのまま味方と共に去っていった。中にいた与一たちは見逃して貰えた事にホッとしていた
「島左近清興。」
与一の頭の中に島左近の名が深く刻まれたのである。それから歳月が流れ、織田信長は本能寺にて明智光秀の謀反に遭い、自害した。後に明智は備中より神憑り的な早さで駆け戻った羽柴秀吉【後の豊臣秀吉】により討伐され、坂本へと落ち延びる途中で落ち武者狩りに遭い死亡したのである。明智を討った羽柴秀吉は勢いに乗り、政敵である柴田勝家等を滅ぼし後に織田家を掌握し、天下に名乗り出たのである。島左近はというと筒井順慶亡き後、筒井定次に仕えたが折り合いが悪く、更に中坊秀祐との水場争いをきっかけに中坊の讒言にあい、追放されたのである。その後は奈良興福寺の塔頭持宝院に寄宿するのであった。寄宿している間は野良仕事をしながら生活をしていた
「さて野良仕事、野良仕事。」
左近はいつものように鍬を持ち、畑へ向かうとそこへ大根を貪り食っている1人の男を見かけた。男は左近の存在に気付き、警戒した
「(こやつは確か・・・・伊賀の。)」
左近はこの男に見覚えがあった。天正伊賀の乱にて会った伊賀者【颯馬与一】である。この男は何故、ここにいるのかは不明だが手に持っていた食い掛けの大根を見た途端、腹を空かせていることが分かった。警戒する与一を余所に左近は与一を無視し、近くにあった大根を掘り起こし、土を払った後、ガブリとかじった
「不味いであろう。ここ最近、雨が降っておらぬゆえ、味も落ちておるでな。」
与一は驚きつつも食い掛けの大根を見ていた。そんな与一を左近は咎めもせず【食ってもいいぞ】と声をかけ、そのまま野良仕事に精を出していた。与一はと言うと、天正伊賀の乱で会った島左近とこんな形で再会するとは思っていなかったようで当初は警戒していたが、大根の出来等を話し始めた事で警戒心を解き始めた
「・・・・島左近清興。」
「ほぉ~、ワシの事を知っておるようだな。」
「・・・・あの時はどうして我等を助けた。」
「戦は我等の勝ちは確定しておったからな、それにこれ以上、無駄な犠牲は出したくなかった。」
「・・・・そちらから攻めてきたのにか。」
「食うか食われるかの戦国の世で生き残るためにはそうせざるを得なかった、ただそれだけだ。」
与一は頭の中では分かりつつも、心の中では目の前にいる男は敵側の武将である事には変わりなかった。すると左近は与一の方へ振り向き、尋ねた
「それで里を攻めたワシをどうするつもりだ?」
「・・・・どうするとは。」
「死んだ仲間の仇を討つのかと聞いておるのだ。」
左近がそう尋ねると与一は黙りこくった。与一からすれば伊賀の里を攻めた黒幕である織田信長は本能寺にて戦死し、総大将の北畠信意【織田信雄】は豊臣配下の大名に成り下がっていた。今は食うに困るほどの生活を送っており、仇を討とうする余裕すらもなかったのである
「今さらお前を討っても仲間は帰ってこねえ。」
「そうか。」
そう言うと左近は再び野良仕事に精を出した。与一は左近の野良仕事を見て忠告をした
「それじゃあ、駄目だ。」
「ん,なんだ?」
「そんな乱暴に土を耕すもんじゃない、貸してみろ。」
与一がそう言うと左近から鍬を取り上げ、土を耕した。慣れた手付きで耕す与一の姿に左近は感心しつつ、名前を尋ねた
「そなた、名は何と申す。」
「・・・・颯馬与一。」
「颯馬与一か、良き名だ。」
「ふん。」
かつては敵同士であった2人は次第に心を通い合わせ、後に主従関係を結んだ。それから歳月が経ち島左近は石田三成に仕えた。石田三成の下で軍師を勤めつつ、内政にも尽力した。与一は左近の手足として各地で情報収集に明け暮れる日々を送ったのである。そして太閤豊臣秀吉が亡くなり、徳川家康が天下取りに名乗りをあげた。左近の主君である石田三成は徳川打倒の兵を挙げ、全国を巻き込む大戦を展開したのである。左近はと言うと配下の与一と共に徳川家康の暗殺を試みたが、どれも失敗しついに関ヶ原へと突入したのである
「左近様、小早川に裏切りの情報が!」
「うむ、殿に伝えよう。」
左近は小早川秀秋裏切りの情報を報告したが、当の三成は豊臣恩顧である秀秋が裏切るわけがないと一蹴した
「殿は聞き届けくださらなかった。」
「左近様、これより某は徳川内府の御首(みしるし)を討ち取って参ります。」
「頼んだぞ。」
「ははっ!」
関ヶ原の合戦が始まり、両軍が入り乱れた。徳川内府は松尾山に大筒を撃ち込んだ。それが切っ掛けで小早川秀秋率いる1万5千の大軍が大谷吉継の陣に駆け込んだのである。その頃、与一は種子島を手に持ち、家康を暗殺しようとした。家康が馬に乗ったところを射殺しようとした瞬間、松尾山の小早川勢が大谷吉継の陣に攻め込むところを目撃したのである
「くっ、やはり裏切ったか!」
小早川の裏切りが切っ掛けで戦況は徳川方の優勢になり、味方は総崩れとなった。与一は焦りからか家康の本陣近くまで近付き、種子島を放とうとした瞬間・・・・
「ぐっ!」
与一の右肩に手裏剣が刺さった。家康を警備していた忍びたちによって邪魔されたのである
「くそ!」
その頃、島左近は石田軍を率いて、迫り来る東軍に向かって獅子奮迅の働きを見せたが、黒田軍の放った種子島によって身体中を貫通したのである。倒れる左近を討ち取ろうと敵の雑兵が近付いたが最後の力を振り絞り、雑兵を追い払った後、その場で倒れた。部下によって人目のつかないところに運ばれ、左近はトドメを指すよう指示した。そして一言・・・・
「さらば、正義の御人・・・・」
そう言い残した後、部下によって介錯された。それと同時期に与一は徳川の忍びたちによって追い詰められ、そして・・・・
「うっ!(さ、左近様。)」
与一の額に矢が刺さり、その場で倒れた。与一は最期に主である左近を思いつつ、息を引き取ったのである。こうして2人はあの世とこの世の境で再会を果たすのであった
「左近様、何処までも御供いたします!」
「うむ、では参るぞ、与一!」
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