第11話:勇者

島左近清興だ。現在、ワシの下に弟子入り志願者と配下志願者が現れた


「どうか僕を弟子にしてください!」


「私をサコン殿の配下に!」


「断る。」


「何ゆえ!(な、何故ですか!)」


「ワシは弟子は取らぬ主義だ、それに配下はいらぬ、すまぬが他をあたれ。」


「そ、そんな・・・・」


「くっ。」


これで何回目だろうか、正直、嫌気が差す。隣にいた与一は・・・・


「左近様の武勇は天下に知れておりまするな。」


「与一、お主他人事だと思って・・・・」


「そのような事を申されても噂はすぐに広まります。こればかりはどうにもなりません。」


「こちらとしても配下と弟子を取るほど暇ではないのだ。」


「そう仰られても向こうはそうとは捉えません。左近様の配下や弟子になれば箔が付きますからな。某も左近様の配下として名が知られるようになりましたからな。」


「忍びは極力名を知られないようにするのではなかったのか?」


「ここは我等がいた現世とは違いまする。それに忍者という適正も御座いますれば致し方ありません。」


ワシは内心、溜め息をついた。現世にいたころも、ワシの武名に惹かれ、仕官を望むものがいて、主君である石田治部に出会うまでは辞退し続けた。異世界に移ってからも仕官を辞退するだけではなく、理由をつけて、弟子入りを拒まならければならない事態に陥っている。優れた武人の下で配下&弟子入りし、純粋に強くなりたい者もいれば、箔を付けるだけではなく、それを利用して良からぬ事を考える打算的な者もいる。ワシは仕官同様、面倒だから前者だろうが後者だろうが断っている


「そういえば勇者パーティーなる集団に誘われたことがありましたな。」


「ああ、ワシらが断ったところ、激昂して勝負を仕掛けてきたが呆気なかったな。」


「左様ですな、左近様の一喝で真っ先に勇者が逃げておりましたからな(笑)」


「適正も充てにはならぬな。」


ちなみに勇者と戦士の違いについてたが、似ているところは勇気があること共通(中には臆病者もいる)している


まず勇者だが一通りの事は卒なくこなせる。よく言えば万能、悪く言えば器用貧乏な適正である


次に戦士だが武術に優れ、一芸に秀でた専門家である


ワシの場合は【戦士】の他に【軍師】と【為政者】の適正もある。【戦士】の他に【軍師】と【為政者】の適正を兼任する者は滅多におらず、自分の陣営に加えたい者が後を絶たない。有名になるのも大変だわい・・・・


「あ、サコンさあああああん!」


うう、この声は、ワシらは背後を振り向き、声の主と対峙した


「サコンさん、今日こそ僕の勇者パーティーに入ってください!」


「何度も言ったはずだ、ワシは勇者パーティーに入るつもりはない。」


「そんなこと言わずに僕とサコンさんが一緒になればきっと素晴らしい勇者パーティーになりますよ!」


「くどいわ!ワシはその気はないし、組むつもりもない、早う去ね!」


「そんな事、言わないでくださいよ!」


ワシらの前に現れたこの男、名前はチャブム・ブレス、年齢は十代半ば、見た目は短い金髪、色白碧眼、女顔で女装をすれば間違いなく美少女、身長は160cmの駆け出しの勇者である。チャブムは勇者パーティーを作る予定らしく、まずワシに目をつけた。ワシは何度も断ったが、それでも諦めず何度も何度も押し掛けてくるのだ


「いい加減にせよ!左近様は貴様の仲間にはならぬと仰っているではないか!」


「おや、誰かと思えばサコンさんの腰巾着さん、相変わらず影が薄いですね。それに貴方には用はありません、僕は今、サコンさんとお話ししているんです。」


「一方的に押し掛けているだけではないか!」


「確かに。」


ワシの言葉を聞いたチャブムはショックになり、しつこく問い詰め始めた


「サコンさん、そんなに僕って、しつこいんですか!」


「何回も申しておるだろ!」


「おお、やってる、やってる。」


「毎回飽きねえな、あの少年勇者。」


「サコンの旦那も飛んだ子に目をつけられたね。」


ワシと与一、そして駆け出し勇者のチャブムのやり取りはこのガルバ町では名物となっている。チャブムの執念深さにワシも与一も匙を投げだしたくなる時があるが、かと言って仲間にするかというと反対だ。正直、こやつ衆道の気があるんじゃないのかと疑ってしまう。特にワシへの接し方が生々しいのだ。特にワシに抱き着き、頬を赤く染めて、仲間になるまで絶対に離さないとはほざきおった。幸い与一が眠り薬を嗅がせて外すことができたが。ちなみにワシも与一も衆道の気はない


「サコンさん、僕よりも、そっちの金魚の糞がいいんですか。僕の何がいけないのですか!」


「誰が金魚の糞だ!貴様と違って左近様と某は付き合いが長いんだ。突然現れて仲間になれという貴様を信用できるか!」


「チャブムよ、悪いことは言わん。他を当たれ。」


「う、うわあああああああああああああああああん!サコンさんのバカアアアアアアアアアアア!糞は死ねええええええええええええええ!」


チャブムは泣きながら、ワシと与一を罵倒して帰っていった。これで何回目だろうか、このやり取りは・・・・


「今日も疲れたわ。」


「左様ですな。」


あの小僧と相手をしていると心身ともに疲弊する。あんなのが仲間になると、これから先、やっていけないと感じつつ、ワシらは宿へ戻ることにした。帰るとレイク・ヒールが出迎えた


「お帰りなさい、サコンさん、ヨイチさん。」


「ああ。」


「聞きましたよ、またあの勇者に狙われたそうで。」


「その話は聞きたくない。」


「これは失礼を、はい、部屋の鍵です。」


「忝い。」


ワシと与一はいつも通り、部屋に戻り、休もうと思い、部屋の鍵を開け、中に入ろうとした


「お帰りなさいませ、サコンさん、お風呂にします、ご飯にします、それとも・・・・」


左近は勢いよく扉を閉めた。左近と与一は互いに顔を見合わせ、再び扉を開けると・・・・


「もうなんで閉めるんですか!失礼しちゃう!」


「「なぜ貴様がここにいるううううううううう!」」


左近と与一の大声に宿に泊まっていた人々が一斉に出てきた。そこへ宿の主人であるレイク・ヒールも何事かと駆け付けた


「サコンさん、ヨイチさん、どうされたのですか?」


「なぜこいつがここにいる!」


ワシがチャブムを指さすとレイクは驚きを隠せなかった


「あれ、なぜ、人が!おかしい、確かに鍵は私が預かっておりましたのに!」


どうやらレイクも、どうやって部屋に入ったのか分からずにいた。宿の鍵は宿の店主によって預けられ、厳重に保管していた


「ふふふ、鍵の複製なら作れますよ。」


チャブムはそういうと複製の鍵を取り出した、どうやら無断で作ったらしい。これはれっきとした犯罪になるので絶対に真似はしないように。その後、チャブムは警備隊に捕まるのであった


「なぜですか!サコンさん、僕はサコンさんを想っているのに!」


チャブムはひたすらワシへの想いを喚き散らしながら警備隊に連行され、その後、刑務所へと移送されることになった


「これで安心して暮らせますな。」


「ああ。」


そのころ、刑務所にいたチャブムは密かに穴を掘ったり壁をよじ登ったりして、刑務所からの脱獄に成功するのであった


「待っててくださいサコンさん、いつか一緒に勇者パーティーを作りましょう♪」


その後、チャブムは全国指名手配され、再び左近と与一は悪夢に苦しめられるのであった


「「いい加減にしろおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!」」





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