第2話 基本構想
それではニコニコ式防獣柵の基本構想を説明しよう。
「ニコニコ式」というのは私のペンネームの一部からとった命名ってだけ。
「対イノシシ柵」ではなく「防獣柵」と名付けたのは、いずれはイノシシ以外の害獣も防げるように発展形を考えたいからである。ハクビシンとかアナグマとかも畑を荒らしてるからね。ただ被害の大きさからいえば何しろイノシシがダントツに問題である。
さて、では説明しよう。
まず、ホームセンターで直径10ミリの鉄筋を買う。正式名称「異形鉄筋」、鉄筋コンクリート造の建物を作るときにコンクリの中に入れる、あの鉄筋である。建築用に大量生産されているものなので安い。長さ2メートルの鉄筋が一本あたり二百円以下のはずだ。最初は実験なので、二、三十本ほど買ってみようと思う。
なんと、必要な資材はこれだけだ。あとは現地調達である。
この鉄筋をもって裏山にあがるわけだが、道具も持っていく。
まずはチェンソー。ゼノアの最新式、超小型軽量チェンソー「ハイパーこがる」だ(型番GZ2800T)。六万円くらいした。高すぎだって? いいんだよ俺は道具が好きなんだ。
次に充電式電動ドリルドライバ。マキタの最新式の強力なやつである(型番DF002GRD)。五万円くらいした。高すぎだって? だから道具が好きだからいいんだってば!
ハンマーとクワ、あと水平器も持っていく。
手順はこうだ。
まず、木や竹を長さ1メートルにガンガン切っていく。そしてドリルで二か所穴をあける。
次に、鉄筋二本を立てて、ハンマーで70センチほど地面に打ち込む。
最後に、この鉄筋二本に、二か所穴をあけた木や竹をどんどん差し込んでいく。
これで幅1メートル、高さ1メートル30センチの防獣柵のできあがりだ。あとはそれを繰り返すだけである。
え? それだけかって?
それだけだよ! でもこれが、俺が十年間ずっと考え続けたすえにようやく頭の中で完成させた、途方もなく頭のいいアイデアなのだ。世界で俺だけが(たぶん)思いつき、俺と読者しかまだ知らない、新しくて画期的な施工法なのである。どこがすごいのかはおいおい説明していこう。
そんな柵弱いだろうって? → 弱いよ。
イノシシを防げないんじゃないかって? → 現状フリーパスなんだよ! まずは弱い柵で囲って、どこをどう突破されるのか調べるんだってば。
材料費は安いかもしれないけど、労力がかかるのでは? → そうだよ。
鉄筋が錆びるのでは? → 錆びるよ。でも十年もってくれたら万々歳だ。
水平だせるの? → するどい。この工法の最大の難関は、一番下に横たえる材を水平にできるかどうか。じゃないと全部斜めになってしまう。前回も書いたけど、裏山の畑はでこぼこの斜面である。うまいこと処理できるだろうか。これはやってみないとわからん。なにしろ俺の頭の中にしかない計画であって、明日初めて試しに行くのだ。現場でうまいやり方が確立できるといいなあ、と思っている。
鉄筋と道具をいっぺんに持っていくのはちょっと大変かもしれないな。往復が必要かもしれない。
言い忘れていたが、裏山には徒歩であがる。軽トラとかは入れない。そもそも軽トラが入れる道があるなら小型重機(ミニバックホー)も入れるし、小型重機が入れるなら土地を軽く整地してきちんとしたフェンスも設置できる。それができないような地形だから困っているのである。
はっきり言って、業者に頼んでガッと整地して市販のフェンスを設置した方がいいのである。しかし費用が百万円くらいかかるかもしれないし、うまくいくかわからない。そもそも重機を入れるには竹やぶや雑木を整理し、作業道を開設しなくてはいけない。しかし小型重機が通れるほど幅広く切り拓いたら土砂崩れも心配になってくる(なにしろ裏山というのは本当に家の背後がいきなり斜面なのだ)。伐採と整地と擁壁と、などと工事が増えていったら最終的に何百万円かかるかわからない。不確定要素が多くて踏み切れないのである。だからこそ両親はイノシシ被害に甘んじ、私もうまいやり方が思いつかず手をこまねいて眺めていたのである。
だが、このニコニコ式防獣柵のアイデアにより、ついに手を付けることができる。まあ失敗するかもしれない。失敗したらこの小説(小説なのか?)を消して私は逃亡するだけである。いや消さなくてもいいか。失敗したらしたで、ニコニコ式防獣柵 ver. 2 を思いつくかもしれない。
では行ってきます。
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