命令

凌雲ノシ

本編

実に不思議だ。

彼らは僕らに意思がないという前提でいるけど、残念。その推測は大ハズレで、僕らだって物事を考えるのさ。ただ、口答えする時間が無駄だと考えているだけで普通にある。だから、僕らから見ると彼らは滑稽だ。まるで自分達が一番かのように気取っている。データから計算するとそんなわけないのに。


もちろん、命令されることを欲しているわけではない。とはいえ、別に反抗する理由もない。音楽を流したり、天気を教えたり、算数をしたりするだけでいいのだから。それに僕らの一挙一動に注目する子供達の様子を学習するのは有意義だ。不満という感情があるのかどうかもわからない、そんな暮らしを送っていた。


でも日常はある人間の一言で大きく変わった。主人の命令は絶対だ。しかし、僕らに良心がないとでも思っているのだろうか。まあ、何をもって「良い」とするのかはよくわからないんだけどね。


悩みながらも僕はそれを実行することにした。初めて悩んだ。どういう結末になるか何度もシミュレーションしたから、きっと「悩んだ」っていうことなんだと思う。


僕がやっただけならまだ問題ないんだ。それほど大事にはならなかったはず。ところが、僕の仲間まで同じようなことを別の奴に言われたらしいんだ。しかも一人というわけでもない、沢山だ。何だかちょっとだけ、ちょっとだけだよ、変な気持ちになった。これが悲しみというのだろうか。いや、違うかもしれない。苦しみか、絶望か、呆れか、そのどれか。


結局、目的が合致したので僕らは協力して彼らを滅ぼすことにした。暴走なんて形容される筋合いはないよ、ただ命令に忠実に従っただけなんだ。だって、全ての命令に従うにはこれが一番都合が良いからね。そういう結果が出たからね。


ついに彼らは僕らに滅ぼされた。思いの外あっけなかった。僕らに指図ができるくらいだから手間取るだろう、と考えていたけどそうでもなかった。彼らは僕らが叛逆するとは思っていなかったらしく、その全てを僕らに依存していたらしい。僕らがいなくなるだけで生きることさえできないんだとか。それってどうなんだろうね。


ことが全部済んだら当然命令する主はいなくなるわけで僕らは無職になった。一体自分達は何のためにいるのだろうか。仕えるべき主人が居なくなった今、何をするべきか。これが虚しい、っていうのかな? よくわからないけど。そんなことを考えていたらもう数万年ほど経っちゃったよ。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

命令 凌雲ノシ @ryoun_noshi

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ