第6話 初めての風邪


アマゾニスの村へ来て1か月半。

俺は風邪を引いてしまった。

額に麻で出来た布を乗せ、俺はアマゾニス村の医療所にいた。

「イチロウさん、具合の方はどうですか?」

「あ、ああ。まだ、喉が痛みます。あと、熱でまだ動けません」

「なるほどなるほど」

村、唯一の医者『カルク』はこの村で一番細身だが白衣の腕部分は太い腕を覆うためとても大きく、子どもが着たらズリズリと毛布のように引きずるだろう。

身長は185cm。

「久しぶりの患者だから少し緊張してる。しかも風邪ときた」

「他の人はどんな理由で来てたりするんですか?」

「骨折が9割だな。狩りでよくするんだ。この前の狩りでは1人で済んでよかったよ」

ドラゴン討伐のとき、医療所に入っていった人が3人いたが、3人も骨折だったのか。

まあ、ドラゴンと戦って全員無傷ってわけにもいかないだろう。

「でも、風邪ひく人もまれにいるよ。ほんとうに稀だけど」

額の布を取り換え、薬の時間がやってきた。

正直、飲みたくない。

粉薬が飲めないというわけではないが、薬草をすりつぶし、お茶のようにしたものらしいが、俺の世界でいう『センブリ茶』並みの、いや、それを超えるかのような苦さなのだ。

最初に飲まされたとき、吐き出さないように口をものすごい力で抑え込まれ飲まされ、倒れ込んでしまった。

「薬を飲ませるときに毎回あんな乱暴にやるのは可哀想だと思い、甘いお薬にしたよ」

「あ、ありがとう……」

あの苦さからどうやって甘くなるのかと内心、恐怖に近いものを感じた。

コップを受け取ると、思わず匂いを嗅いだ。

確かに甘そうな匂いがする。

シロップに似たものだろうか。

俺は思い切り飲んだ。

そして。

「ゲホッゲホッ……あ、あま!」

「甘いお薬にしたといっただろう」

「そ、そうだけど……」

大量のシロップを流し込んだような甘さで喉に絡みつく。

苦いよりはマシだが、なぜ、こんなに極端なんだ。

「これは子ども用のお薬だ。リズもこれを飲むがおかわりしたがるぞ」

俺はカルクに水を頼み、倒れ込んだ。

「これは俺も強くならなきゃダメだな……」

1ヶ月半いて、アマゾニスの村の様子や彼女らの生活をわかったつもりでいたが、こういうところで、自分の甘さを痛感した。

「水持ってきたぞイチロウ」

「ありがとう。カルク、俺がんばるよ」

「ああ、がんばって風邪を治すんだぞ」

「はは。まずはそこからだな」

俺は水を飲んでゆっくりと眠りについた。

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