α隊 3番 名前 末尾敬介

走った。

とにかく走った。

二人の子供を抱えて。

どっちも頭から血を流している。

いや、俺もだが。

フラフラする。

徹夜明けみたいに頭がフラフラする。

寒い。

しかし、この街は熱い。

物理的に。

燃える家。ひび割れて隆起した道路。

そして。


「クソ!こっちもか!?」


セーフゾーンに戻る為の道が陥没してガス管から火が出ている。いつ爆発してもおかしくない。

なぜだ?

この子供達がもう生きている保証すらない。

なのになぜ俺は生きている。


「……」


どうすればいい?

どうすれば人を助けられる?

首に吊り下げていた金色の翼が生えている首飾りを触る。

硬いだけだった。

どうすればいい?

ここ以外の道は無い。

迷路みたいな住宅地のマップは覚えているが、どこが陥没してどこが通れないとかはうろ覚えでしかない。

こうしている間にもこの子達が死ぬかもしれない。

もう、がむしゃらに走るしかない!


「ああ、なんで初めての実戦でこんなのと戦う事になったんだよ!?こんな人の住んでいる所を全て……全て!!」


走っていたら後ろから破片が飛んできた。

それが頭にぶつかり、俺は倒れた。

そして、地面が爆発した。

自分の腰の断面をみながら、それをさえぎるようにあらわれたきんいろのくびかざりにてをのばして……







のばして……








掴んだはずだった。

掴んだのは目覚まし時計だった。

目覚ましのハンマーが私の手を叩く。

痛い。あ、でも目が覚めた。

とりあえず恨みを乗せて叩いてアラームを止めた。

朝が毎日気持ちいいのはこの世界ワールドならではだろう。

カーテンを開ける。

森の中にある小さな池の側に建てたこの家に満足しながら着替えを始める。

着替えているとチンッ!とパンが焼けた音が鳴る。

時間通りだ。

流石は5TBのトースターだ。時間が毎回違う。

今日はいつもとは違う。だからウキウキでパンを食べるのだが、スカッとした。バグだ。

ちょっと安い物を買ったのだが、たったの124MBじゃダメだったか。


「はあ」


ため息をついたらいつものように玄関を開ける。


「いってきます」


そして、扉が閉まった。



歩きながら最近の曲を聞く。

Vチューバーの曲がきたら毎回飛ばす。今はそんな気分じゃない。

タクシーに乗って学校に向かおうとしたが、時間が余りすぎても嫌なので歩いて向かう。

ゆっくり向かっていたのだが、目の前で事故が起こりそうになった。

交通事故程度なら無視したが、ホールに向かって歩く人が居たのだ。

今時ホールだなんて珍しいと思いながら人に近づいて注意する。


「そこにホールありますよ」


「え?」


しかし、一歩遅かった。


「うわあああぁ!?」


「あ~」


あちゃ~と頭に手を当てるが、迷ってるわけではない。反省しているのだ。

とりあえず自分もホールに飛び込む。

ホールとゆうのはデータ上で起きたパケットの補填が完了していない所を指す言葉だ。

一時期ブラックホールだなんて呼ばれていたけど。今では落とし穴みたいなもんだとしてホールと略された。

スカイダイビングを楽しめるとゆう事で一時期スカイホールだなんて単語が流行っていたな~。

しかし、スカイだなんて単語よりナイトが合ってる気がするが……まあ。そこは個人の問題か。

と考えていたら落ちた人に追い付いた。

冷静になって減速姿勢を取ったみたいだ。

とりあえずもうそろそろ暗礁深度になるはずだ。回避行動を取らなければ……


「おじさん!捕まって!!」


おじさんが腕に捕まる。

そこじゃなくて……クソ!これじゃ痴女だな!?

おじさんを胸を気にせずしっかりと抱いて移動する。

横を高速で通り抜ける物を視認マークした。


「金出したくなきゃしっかり掴まってて!!」


風がないのに横をビュンビュン通り抜ける。

たまに避けきれない物があり、体を盾にして守る。

データが体に来る。痛い。

そして、深度380を越えた所で光が見えた。

そして、ホールから吐き出されるように勢いよく路上に出て壁にぶつかる。


「大丈夫?」


そう言いおじさんの安否を確かめるも、口が半開き。目はずっと開いたままで空を見ていた。

そして、なんとか吐き出した言葉がこれだった。


「やわらきゃい……」


後悔した。本当に。無視しときゃ良かったと。

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