第2話 選択
彼女が居なくなった学校生活は、どこか物足りなく、俺を一層寂しくさせた。
中学からの親友である岡野は、そんな俺を気遣ってくれた。
「お前は勉強が好っきやもんな。それ全力でやったらええんちゃう?」
「お前も学生やろ。お前もやれよ。」
「せやな。」
岡野は歯並びが良く、奥歯が全部見えそうな位に良い笑顔をする。
背の低いが、俺にとって大きな存在だ。
グループサウンズの影響で、七三分けを誰よりも早く取り入れ、ナウい奴。
お洒落とは無縁の俺にとっては、新鮮だった。
岡野の言葉を間に受けた俺は、勉強に没頭した。
数学は何より好きで、勿論2冊同じ教科書がボロボロになるまで解き尽くした。
「岡野、俺理系に行くわ。お前は?」
「俺は学校の先生になりたいねん。文系行くで。」
「お前が先生か。
「そんなん
また奥歯が見えそうな位に笑った。
気づけば高校2年の秋になっていた。
彼女には、時々手紙を書いたりはしていたが、長らく会っていない。
彼女がくれた手紙に、簿記検定を受けると書いていた。
働く為に、簿記を勉強するらしい。
彼女が前向きに生きている事が何より嬉しかった。
そんな手紙をお袋に読まれない様に、辞典の間に挟んだ。
俺の従兄弟が国立大の医学部に入ったとお袋に聞いた。
それに感化されたお袋が医者になれと言ってきたのだ。
医者になんて特別興味があった訳では無いが、母親に従順で、影響されやすい俺は医学部を目指す事となった。
その頃、俺は学年トップの成績を取っていた。
修学旅行にも単語帳を持っていき、友達が浮かれている中でも、必死で勉強した。
全ては彼女の為に。
久しぶりに彼女の手紙が届いた。
簿記検定に合格したと書かれてあった。
俺に勉強の仕方を教えて貰ったからだと謙遜していたが、全て彼女の努力である事は言うまでも無い。
俺は会うのを我慢していたが、この日ばかりは家を飛び出し、彼女に会いに行った。
おめでとうと言いたくて。
「何で来たんよ?」
彼女は笑顔で迎えてくれた。
「特に用事は無いねんけど。」
「なにそれ!」
「なにっていうか、おめでとう。」
「それわざわざ
「俺用事思い出したから、行くわ。」
「なにそれ!」
彼女が満面の笑顔を見せてくれた。
あれから2年も経ったなんて思えないが、彼女の学生とは違う締まった顔つきに、大人っぽさを感じた。
家に帰ってからは、何かに追われる様に勉強した。
今俺に出来るのは、これしか無い。
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