第13話 ルカ
弱い眠り薬を飲まされたようで、ぼんやりと目を覚ました。目の中に最初に飛び込んできたのは、ベッドの上に座る少女の、真っ白で陶器のように滑らかな背中だった。先ほど自分を縛り上げた男が、横に寄り添うように手に手を重ねて座っている。剣を持っていたのだから兵士なのだろう。
起きあがろうと足掻いていると兵士が気が付き、イリーナを背中から毛布で包んだ。兵士から部屋の外に出され、縄を解かれた。
「詰所に戻っていろ」
兵士は中に入ると、中から鍵をかけた。
足音を立てて、詰所の方へ戻り、足音を殺して扉の前に戻った。食事を差し入れるための小さい扉に黒いガラス戸が降りていて、中を覗く事はできなかったが、扉に耳をつけると、なんとか声を聞き取る事が出来た。
「今夜は側にいて……」
「イリーナ、さっきはやり過ぎた。痛かった? ごめん……ショックが大きすぎたね。そうだ、添い寝をして昔語りは如何?」
「兄様、朝までいてくれるの?!」
イリーナの嬉しそうな声が聞こえた。そ、添い寝? 朝まで? 何かの聞き間違いだろうか。しかもイリーナは嬉しそうだ……。
何をしているのか分からないが、その後イリーナのくすぐったそうに笑う声がした。イリーナを笑わせている相手はあの兵士だ。
「駄目、そんなに……あぁ、もう、兄様ったら」
イリーナの息が弾んでいる。
「……そんなに、舐めないで、くすぐったい……」
聞き耳を立てている事を後悔した。何をしているのか分からないだけに、妄想で頭がいっぱいになる。身体中の血が逆流している。どのくらいぼんやりと立っていたのか、分からなかった。イリーナの声で我に返った。
「兄様、服を着て……それで、物語はちょっと……」
「昼間の軍務がきつかったから、つい、気が緩んで……うたた寝してしまった」
目の前が真っ暗になった。二人の会話で聞き取れた部分から考察すると、男はイリーナの恋人だとしか思えなかった。嫉妬でおかしくなりそうだった。気がつくと詰所に戻って床を見つめていた。
約束通り、指輪を返しに来て、やっと、イリーナを見つけたのに……。イリーナが十四歳から姿を見せなくなったと聞き、何とか探り出して、城の下働きになってさらに探った。地下に閉じ込められているのが、イリーナかもしれないと思って、なんとか門番になった。門番になれば、助け出す事ができるかもしれないと思った。イリーナがそのままお姫様であれば、手の届かない人だった。でも、閉じ込められている所から、出してあげれば手の届かない人ではなくなる。
イリーナはひとりぼっちで寂しいから、来てくれる兵士を相手にしているのかもしれない。兵士を引き止めているのは人恋しいからかもしれない。他には、誰も、ここには来ないのだから。
そうだとしたら、望みはある。あの男は地下牢に使わされるくらいだから、下っ端の兵士なのだろう。「兄様」とイリーナが呼んでいるのは昔馴染みの兵士だからなのだろうか? それとも、本当に兄妹なのだろうか。そうだとしたら、それは人として間違っていることではないだろうか。いつから、あの兵士はイリーナの所に通っているのだろう?
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