第9話 キール

 アラムの後、地下牢の門番になった者は三人。三人とも、骨しか残らなかった。アラムの次は四カ月保った。その次は三カ月。その次は二カ月しか保たなかった。

 イリーナの中の魔物は人の味を覚えてしまったのだろう。イリーナを無意識に操って、鍵を開けさせておくのかもしれない。


 後一人がダメならば、私が門番をやる、と父に言うと、父は嫌な顔をした。


「いくらイリーナ姫ための門番だとしても、公爵家の長男が門番の代わりなど相応しくない」


 父は最近、前にもまして、舞踏会参加を促した始めた。


「指輪が見つからず、イリーナ姫が地下から出ることが出来なければ、許婚は口約束だし、公にしていないから破棄して良い。きっと女王陛下もそう仰るから、相応しい子を見つけて早く結婚しろ。そして、長男のお前が順番通り公爵家を継げばいい。女王陛下も、お前を手放す事はできぬ故、お前が言えば反対はできまい」


 父の言いたいことも分かる。イリーナが廃嫡となり、自分と結婚すれば公爵夫人となる。公爵夫人はずっと地下にいる訳にはいかない。母を見ていれば分かるが、公爵夫人はやらなければならない事が沢山あるのだ。

 昼間しか表に出ることの出来ないイリーナは、それをこなすことは出来ずに、きっと気に病むだろう。


 イリーナの事をずっと本当の妹ジーナよりも可愛がってきた上に、自分を訓練してくれた先代の王配であるイヴァン様から、イリーナを頼むと託されている。


 イヴァン様はイリーナとの婚約を躊躇わせるためではなく、固く結びつけるために言ったのであろうが、イヴァン様が言っていた「虜」という言葉が婚約継続を躊躇わせた。自分を「虜」にするような者とは一定の距離を置いた方が良いのではないかと。

 だんだん、イリーナから離れることが出来なくなってきている自覚があった。その執着が、正常な恋愛の範疇に入るのか、度を越してくるのかわからなかった。これからイリーナが成長し、この間、狩猟に遅刻した時よりも、強烈な多幸感を味わってしまったら、自分をコントロール出来るかどうか、まだ自信がなかった……。



 四人目の門番は半年経った今も無事だ。昼間のイリーナが気を引き締めて鍵をかけているのかもしれない。

四人目の門番の名前はルークと言った。この国の者ではなく、仕事を探しに来た流れ者だった。万が一魔物の餌食となっても、家族が探しに来ることがないと言うことで採用した。口も堅そうだった。

最大の気がかりは、ルークが天使とみまごう程の美少年だという事だ。なぜあの容姿で、こんな人目につかぬ地味な仕事につこうとするのかと不審に思ってしまうくらいだ。不採用にしたかったが、これ以上、自分で門番を続けていると父がまたうるさく言い出すこともあり、後釜もすぐには見つからないので仕方なく採用する事にした。

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