Song.29 Triple Guitar


 藤堂のベース音でワンフレーズ。それから曲が始まる。


 ベース、ドラムにギター三本。

 喧嘩しそうな楽器構成であるが、そうならない。なぜかって?

 それは藤堂が作った展開の読めない曲だから。そうとしか言えない。

 たいてい、ギターが三本もあればうるさいし、使いこなせない。ただ音の厚みがでたかな、程度におさまる。しかし、藤堂はこのギターたちを使い分けていくのだ。



 藤堂の音を聞いて、急に加わった俺に対する戸惑いを消し、みんな演奏に集中し始める。

 俺がこいつらと合わせるのは今回は初めて。あらかじめ聞いていたとはいえ、実際同じステージに立つと圧倒されそうになる。

 けれど、止まってなんかいられねぇ。

 序盤で勢いに便乗する。

 ここまでで体育館で呑気にボールを投げる生徒はいないことを確認した。


 この曲で藤堂は自分らしさを爆発させている。

 それが歌詞にも表れていて、自分の個性を最大限に生かしている。

 どの曲もそうだが、今までの周囲に同調してばかりの藤堂の殻を破り、全く違う人であるかのように、現実を強く叫ぶように唄う。


 曲が進むと、ボーカルがチェンジする。

 藤堂から、久瀬姉へだ。

 嫌がっていたという情報は聞いていた。でも、今は隣で強く唄っている。


 女性ボーカルといえば、可愛らしい声という印象があるかもしれない。だが、久瀬姉はそんな可愛らしさなど出さない。むしろそんなの微塵も狙っていない。ドスの効いた力強い声が、曲を一層盛り上げている。


 そんな二人のボーカルを支えるドラム。姉がこうまで変われば、弟もつられて変わっている。頭を振ってリズムを刻んでいて、狂ったように笑っている。


 今までの曲と全然違う雰囲気。でも、納得できたのか、小早川はギターを弾きつつコーラスに加わる。激しいメロディーに合わせ、強い音を全身で表現している。


 やるじゃん。

 いい意味で全員が音に狂っていて、この曲はめちゃくちゃかっこいい感じに仕上がっている。


 ステージ下で見上げる生徒たちは、目まぐるしい展開で進む曲にくぎ付けだ。

 今回サポートで入ったけど、このバンド、楽しいな、おい。


 再び藤堂へボーカルが戻ったかと思いきや、再度久瀬姉へ。

 AメロもサビもBメロも。ごちゃまぜの展開。それが楽しい。

 演奏している全員が全身で音楽を表現しているのを見て、一部生徒が手を振り上げて、ライブらしくなってきた。

 ……が、やっとそうなってきた中で、曲は終わりを迎えた。


「――ありがとうございましたっ……!」


 藤堂がそう言って頭を下げたとき、幕が下りていく。

 これで終わり。そう認識した生徒たちがざわつきながらも拍手を送る。

 よくわからないまま始まって終わった、そんな顔にみえた。


「野崎先輩」

「んあ? どした?」


 幕が完全に下りて、撤退をし始める藤堂に声をかけられ、手を止める。ほんの短い間でも、ステージに立つと暑くなる。額に汗をかきながら、藤堂は息を切らすわけでもなく通る声で向き合う。


「ありがとうございました! また、終わったら再度お礼させてください!」

「おう。んじゃま、俺らのライブをよく見とけよ?」

「はいっ!」


 ペコペコ頭を下げた藤堂。顔を上げたときは、今までに見たことないぐらい笑顔だった。

 そして次々に俺に頭を下げてから掃けていく√2のメンバー。一番深く頭を下げたのは小早川。何かを言いたそうだったが、まあいい。用があれば後で言うだろう。


 そんなやつらと代わりにステージに上がって準備をするのは、Walker……俺たちのバンド。

 もしかしたら、いったん幕が下りたことで、この謎のライブは終わりだと思った人がいるかもしれない。だから、終わりでないことを伝えるべく、大輝が真っ先にマイクをとる。


『軽音楽部! まだまだ終わらないぜっ!』


 見えなくてもわかる。ざわつきが一層大きくなったことが。

 その声の中に、「部活があるんですけど」っていうのもあった。

 ま、無視するけどな。


「キョウちゃん!」

「お、わりい。ギター、返す」

「もう! 悠真先輩、すごく怒ってたからね!」

「うぐ……後がこええ……」


 瑞樹にギターを返し、代わりに持ってきてくれた俺のベースを受けとる。

 場所を変えて、ベースアンプの前へ。

 ライブと言えば、アクティブに。シールドではなく、ワイヤレスでアンプにつなぎ、自由に動くのだ。

 考えに考え抜いた音を出すためのエフェクターも準備。音がちゃんとでることを確認するために、弦を弾くと、ブオンと低い音が体をなぞる。

 この音の方がしっくりくる。

 ギターより低い音に、重く大きいボディ。全身で感じるたびに、心臓が高鳴る。


 うずうずしてきたところで、鋼太郎がスネアをダダッと叩く。それが準備を終えた合図だ。


『っしゃー! バスケ部、バレー部、卓球部! それに体育館の入口で集まっている人達、全員! あとあと、えーっと……いろんな人! 俺たちのライブに参加していけっ!』


 その声のバックで、悠真がキーボードを鳴らし、言いきったとの同時にドカンと全員の楽器が鳴りだした。


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