Song.12 音楽バトル
「さて、みなさん。突然ですが、Mapの神谷さんがいらっしゃいました」
訳がわからない。そんな顔をしたままの一年ズと共に、全員が先生の言葉に耳を傾ける。
黒板の前に立つ先生と神谷。二人の表情は正反対だ。
楽しそうな神谷に対して、ちょっと顔が引きつった先生。
神谷に振り回されてるんだと思う。
「色々とお話をして、色々と考えた結果。バンドで道場破りなら、曲をぶつけ合うしかないでしょ。という神谷さんの提案を受けまして、それぞれのバンドに一曲披露していただき、それをインターネットで公開することで白黒ハッキリさせたらどうかと……ですよね、神谷さん」
「そ。機材も環境も同じ中で渾身の一曲。一週間やそこらで区切って、評価と視聴回数で勝敗を決める。どう? 良い提案だろ?」
なるほどな。第三者がいなければバンドに勝敗なんかつけられない。その第三者をネット上の誰でもいいということにする。いくら身内票を集めようが、その他大勢がいれば微々たるものにしかならない。
そもそもバンフェスも、一次審査から三次まであっての最終審査になる。
一次は書類審査だが、二次はネット上での一般審査。三次が小規模ライブ審査からの、最終が大規模屋外ステージで審査。
ネット上の審査を経験したけど、案外知らない人にたくさん見られているものだ。
それを知ってるから、神谷の提案はいいものだと思った。俺は。
「せんせー、それって一本勝負?」
「希望があれば、回数を増やしてもいいかと思いますよ」
一本以上……オリジナル曲でやるとしたら、相当大変になるぞ。
ゼロから曲を作るとなると時間が。
俺が曲の基本形を作って、悠真が手を加えて、それから練習しつつ全員が意見を出してさらなる改変を加えて……ってやってるから、マジで時間がかかる。
「はい! 時間が足らないと思ったそこの君! そして君! いや、君か? プロになりたいなら、どんどん生み出していけるようにならないとな! ってことで三本勝負にしとくか」
俺らと一年を適当に指差して言った神谷。
こいつ信じられねぇ。三本とか、寝る時間も無くなるぞ。
「ちょっと神谷さん。それはなかなか学生には大変では……」
「そうか? 俺ら、よくやってたぜ? 一カ月で三曲とか普通に。まあ、恵太が曲を作るのがめちゃくちゃ早かったからっていうのもあるけど」
「ですが彼らは学生ですし……」
「いけるいける! な?」
神谷からの同意を求められて、激しく手を上げて返事をしたのは二人。
「やるっ!」
「ッス! やります!」
大輝、そして小早川だった。
「やるよな、キョウちゃん! ユーマ! 二人ならいけるって! 曲、作って!」
「無責任な……」
「こいつがこんなん言うのは目に見えてただろ。今更だ。俺はやるぞ。悠真は?」
「ここでやらないとか言うわけないでしょ」
悠真が大輝を睨んだ。それにひるむことはなく、大輝はキラキラした目を返してくる。
約一年、大輝と一緒にバンドをやってきているから、大輝が「やだ」なんて言うことは早々ないって知ってる。
悠真も負けず嫌いだし、人にあれこれ言われたくないしで、断るなんてことはしないのも知ってた。
「やった! みっちゃん、コウちゃん。二人もやるよね?」
「もちろんです」
「やりきれる自信はないけど、やる」
瑞樹、鋼太郎も意思表明をした。
みんなやる気に溢れてて何よりだ。
俺らが大輝を先頭にやる気を示した傍らで、一年ズも話し合っていた。
「ここでやんなきゃずっと二番目のままだよ!」
「えー。あたし、そんな弾けない気がする」
「俺も。ずっと練習してたら、せっかく女子がいるのに、話す機会もなければモテないじゃん」
小早川は瓜二つの男女に冷たく切られていた。
「なんだよ! もう! ユーヤは!?」
「えっとー……俺はみんながやりたいなら……」
藤堂は困ったように言う。
「先生っ! 俺たちも……
「ちょ、イリヤ!? 俺らはやりたくないに一票ずつ入れてるんだけど?」
「うわー、イリヤのダルい面でてきたわー」
√2。それがこいつらのバンド名らしい。
意見をろくに聞かずにやる気を伝えたイリヤに対し、瓜二つの男女は嫌そうな顔を向ける。
「祐哉からも何か言ってよ。曲作るのはイリヤでしょ。作るの時間かかるのはイリヤじゃん」
「そうだ、けど……イリヤはやりたいって言ってるし……」
「ああ、もうっ! ウジウジしてばっか! 知らねぇかんな、俺! 未完になっても!」
「あたしもー。弾けなくても文句言わないでよねー」
どうやら俺の感はあってたらしい。
この一年ズ、関係が最悪だ。
全員が向いている方向がめちゃくちゃ。曲自体はいいものなのに、つまんなそうに弾くのはそれが現れているのかもしれない。
「何、お前ら意見割れてんじゃん。それでもいいの?」
「いいッス。これがいつもなんで!」
「そ」
神谷は呆れていた。
「では、上級生たちのWalker。そして、新入生たちの√2。互いの音楽をぶつけ合いましょうか」
先生はそう言ったあと、笑顔のまま口を閉ざす。
「どうしたんです、先生」
「……三本勝負ってどうやったらいいのかなって……一応部活動ですし、活動報告書にどうやって書こうとか考えたら冷や汗が。私は顧問であって、活動にあれこれ言えるような立場ではなくて」
「え? そんなん、パーッと決めればいいっしょ。三本勝負にお題とか入れたり?」
「お題……そうですね。では、神谷さん。お題をお願いします」
「まじ? じゃあー……」
は?
お題ありきなの?
中身も何も決まってない三本勝負、神谷の言うようにパーッと考えるような感じでやってくのかよ。
「よし。決めた。お題。発表しまーす」
考えるのに時間はかかっていない。
神谷は先生を退かして、チョークをとって黒板に書き込む。
「三本勝負、お題というかテーマ? 課題? は三つ! ひとつ、フリーテーマのオリジナル曲。ふたつ、流行っている他のアーティスト曲のコピー。みっつ、共通テーマのオリジナル曲! これでいこう!」
オリジナル曲は二曲、コピー曲一曲。それを神谷は汚い字で黒板に書いた。
「どうしてまたコピーを?」
三本全てオリジナル曲かと思ってた。
まさかコピー曲をやるなんて。
先生も俺と同じ疑問を持っていたから、そんな質問がでた。
「既存の曲をコピーするにも、全く同じじゃなくて、どっかに自分たちらしさを入れるのも技術だろ? 二バンドが同じ曲をやったら、どう違うところがでるのか、それを知るのも勉強になるしやって損はない」
「なるほど。では他の二曲についてもせつめをお願いします」
「フリーテーマは何でも好きな曲な。自由に作ったやつ。んで、共通テーマは、そうだな……夢でいこう。夢をテーマにした曲を作れ」
無茶苦茶な課題。それでもプロである神谷が言うんだ。受け入れてしまう自分が憎い。
「コピーしてもらう曲も決めとかないとな。はい、じゃあ全員スマホだしてー」
なぜ? という顔をしながらも、神谷の言葉に従ってみんなが自分のスマホをガサガサと取り出す。
「野崎、スマホは?」
「家。だから見せて」
「お前な……いい加減もってこいよ」
俺に呆れた鋼太郎に近寄って、画面が見えるようにしてもらう。
仕方ないだろ、スマホはあんまり使ってないんだから。
「忘れた非現代ッ子もいるけど、置いといて。流行の曲を見てみましょ! ということで、全員
動画サイトであるiTube。そこへ全員がアクセスする。
「開いた? じゃ、上の方にある音楽をタッチ。そこからホットランキングっていうところをタッチしてー。そこのトップにある曲をコピーしてもらうから」
鋼太郎が言われたままに画面に触れていく。
そして、ランキングが画面に表示されて目を疑った。
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