Song.10 合間の時間にやることは


「ユウヤ、いじめられてたの!? あの人に!? なんて奴だ! まったくもう!」

「いや、俺は……」


 大輝を押しのけて、勢いよく小早川が藤堂へと迫る。

 否定する藤堂の話を聞くことなく小早川は勝手に決めつけて、敵意むき出しにして俺を睨んできた。


 いくら睨まれようが、別にビビることはない。だって俺、悪くねぇし。何もしてねぇし。それは藤堂が保証するだろうし。


 何で小早川だけこんなに敵意を向けてくるのか。何だかめんどくせぇやつだな、って思ってたらゾロゾロとみんな物理室にやって来る。


「僕、今までにあんなタイプに会ったことないし、手に負えなかったよ。うるさい、騒がしいのは慣れたものだけど、何一つ人の話聞かないし、周りが見えてないのは無理」


 まだ新学年始まったばかりだと言うのに、悠真は酷く疲れ切った顔をして言って、物理室に固定された机に寄りかかった。


「だろうな、俺もねぇよ。あんな暴走状態でよくバンドができるな」

「同感。まだ、君の方が分かりやすいから扱いやすいよね」


 はぁ、とため息がこぼれた悠真とはほんの少し距離が空いていたのかラグを挟んで、ぎこちない顔をした瑞樹が鋼太郎を間に入れて残りの一年二人と話しながら来た。


「あ、キョウちゃん! よかった!」

「あ? 何がだ?」

「何でも! 鋼太郎先輩と僕ですごく困ってたから! キョウちゃんがいれば安心だもん!」

「はぁ?」

 

 俺を見るなり瑞樹が顔を明るくさせる。鋼太郎も少しだけ顔が緩んだようにも見える。いつも顔が固いしな。比較すれば、の話。


 瑞樹の話は見えないが、とりあえず俺がここにいるだけで安心したのだと。それならまあ、いいや。よくわかんないけど。


「で? 悠真。一年も来て何するんだよ」


 ライブの片付けが終わったなら、俺はすぐに練習を始めたい。でも、一年がいたままやるべきか。どうするかと、部長である悠真に聞いたら、「僕に聞かないで」なんて言われたものだから本当にどうしよう。


「ねーね、先輩。先輩はなんでギターなんですか?」

「えっ、それはー……」

「いつからギター始めたんですか?」

「いつ……」

「どうしてそのギターを選んだんですか?」

「はわわわわ」


 俺が考えたまま棒立ちになっていたら、一年唯一の女子が瑞樹を質問攻めにしている。答える間もなく次の質問をしてくるものだから、瑞樹はパニックだ。


「片淵先輩はどうしてドラムを?」

「野崎に言われて」

「へぇ。じゃあまだまだ経験浅いんですね」

「ああ」

「俺、ドラム歴今年で六年なんですよ。すごくないですか?」

「そうだな」

「先輩より経験も技術もあるかもですね」

「……」


 鋼太郎はまた、別の一年に質問攻めされていて。

 どんどん眉間のしわが深くなっていっている。一年の言い方がとげとげしくて、めちゃくちゃ怒ってるんだろうけど我慢しているようだ。


 何かしないといけない気がする。

 このままだと瑞樹と鋼太郎は参ってしまうだろうし、悠真はすでに頭を抱えているし。

 俺と大輝の馬鹿二人だけが、ピンピンしてるのが異様だ。


「あ」

「何。何か馬鹿なことでも思いついたの?」


 面倒なことは言うな、そんな目で悠真が見てくる一方、大輝が目をキラキラさせて俺を見る。


「思いついた」

「なになに!? 何やるの? 楽しいことか?」

「ああ、楽しいことだ。そう! 時間も潰せる楽しいこと! ライブ……いや、披露会? だ! 俺らがやる方がはさっきやったし、今度は一年のを見るでいいだろ?」


 閃いた俺に、対極な二人の目が刺さる。


「嫌な予感がしたよ……君の楽しいことって音楽一択しかないし。むしろ他にある方がビックリする」


 冷静に俺を分析する悠真を横に、テンションぶち上がりした大輝が声を大にする。


「やったー! 一年の演奏聞けるー! 楽しみ! 決まったなら準備だ! おーい、イリヤー、お前ら今日、楽器持ってきてる?」

「持ってます! もちろん!」


 小早川は教室後方の机を指し示した。

 そこには見慣れない真新しいバッグが四つ。それと共に真っ黒のギターとベースケースが全部で三つ置かれている。


 数的に一年のものか。

 ギターが二本のバンドなんだな。


「大輝。セットすっぞ。今日はいつもと違ってギターアンプ、もう一個多くする。ギター系は瑞樹、準備だ」

「うん、わかった」


 おどおどしていた瑞樹は二つ返事で、クルリと体の向きを変えて、体育館から運んできたアンプへと移動する。


「鋼太郎は瑞樹のヘルプ頼む。一人じゃ重すぎる」

「おう」


 力持ちの鋼太郎には、瑞樹の手助けに。

 俺らはギター一本しか使わないから、ギター用アンプも必然的に一つで足りていた。けれど一年は二本になるから、アンプもその数必要だ。


 家庭用の小さい奴も学校にあるけど、デカいやつでやった方が断然いい。マイクを使って音を大きくできるけれど、どうしてと他の楽器に負けるだろうし。

 それに音自体もやっぱり違ってくるからな。


 まあ、どうせ音作りのために色々やっているだろうど、せっかくいいアンプが揃ってるのだから、使ったほうがいい。


 普段使わないから、物理室の奥の奥に追いやってしまったギターアンプを二人に準備してもらおう。


「大輝はマイク。俺はベースの準備をする。悠真はドラムセットを……」

「ドラムなら、ほら。あの一年生がテキパキ準備終わらせているよ」

「あ、早い」


 それぞれに指示を出したけど、悠真の言うとおり、ドラムセットは一年によって既に準備されている。


「んじゃ、キーボードの準備で。一年が終わったら俺らもやるだろ?」

「やるね。了解」


 あれこれ言うけど、悠真もバンドが好き。だから、納得した顔で準備に取りかかる。

 よし、俺もとっとと準備するか。

 人が多くてわちゃわちゃする中で、それぞれが動き始めた。



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