Song.2 春来襲
「最近はやってる曲って、なんか言葉遊びじゃね? 人数多い割には後ろで踊っていたり、歌詞に英語をわんさか盛り込んで。それってなんか中身がないと言うか。というか踊りって音には関係ねぇじゃん。映像じゃないと楽しめねぇじゃん」
春が来た。バンドメンバー揃って初めての春であり、高校最後の春が。
進級に伴いクラスが変わて、新しいメンツでにぎやかになった教室で俺は愚痴を吐いた。
今日が新学期最初の日、しかもホームルームが始まる前。爽やかな朝にふさわしくない発言であるが、それを紙パックのコーヒー牛乳をストローで吸いながら静かに聞いているのは短髪が爽やかなクラスメイトの
「んにゃ、俺も踊ってるよ? ライブの時は」
「そりゃライブだからだろ。ライブで棒立ちとか、昔のアイドルじゃねぇんだからぜってぇやんじゃねぇよ」
「昔のアイドル……キョウちゃん、アイドルまで知ってんの?」
「親父がよく見てたからな」
「うわぁ、キョウちゃん、意外~」
相変わらず軽く『キョウちゃん』などと軽く呼ぶ大輝がじっと俺を見る。んだよ、と言えばニコニコにながら「別に~」と言って気が抜けた声を出す。
「そういえばさ、部活は今日もあんの? 次は何を目標にする? バンフェス優勝しちゃったし、さらに目標立てていこうよ」
「今日も部活をするに決まってんだろ。だけど、目標も決めないとだらけるな……」
バンフェス。正式名称はバンドフェスティバル。
全国の高校軽音楽部だけが参加できるバンドの頂点を決める大会。野球部でいうところの甲子園、バレー部でいうところの春高みたいなものだ。
この大会出身のプロアーティストは多数。最早プロの登竜門と言っても過言ではない。俺の親父も、バンフェスで優勝してプロになっている。
俺らが二年の時、
ただし目標がないとモチベーションが下がってしまうのもわかる。今年もバンフェスに出るという手もあるが、他にも何か仮の目標が合った方がいいだろう。しかし
、具体的な目標は何も浮かばない。
うーん、と唸っていれば大輝はスマホを取り出し何やら始めた。
「あ、ユーマから連絡きてたよ」
「
この
いくら悠真の話をしても、クラスいや、学校内であんまり評判がよくない俺に声をかけようとする猛者はいないと言っていい。
約一年、こんな目を向けられ続けたから、俺を通り越して向けられた悠真への目に今更引けを取ることはない。あー、また見てるんだなというような気持ちしか抱かない。ちなみに女子からの熱い視線を悠真に伝えると、嫌悪感丸出しにしてくる。悠真の言葉を借りれば、上っ面しか見ていない奴らなんか嫌いなんだと。それには俺も同意だ。
「ユーマがねー……んー、ホームルーム終わったらすぐに物理室集合だって。遅刻厳禁って。そういやキョウちゃん、スマホは?」
「スマホ……あ? ねぇな。どこやったっけ?」
椅子にかけたままの堅苦しい学ランのポケットやら、机の横にかけてあるバッグやら。手を入れて探るも、自分のスマホが見つからない。今時の高校生ならが肌身離さず持っているものであるが、俺的にはあんまり重要度が高くない物だ。連絡をとるのに使うだろうけど、大概バンドメンバーと一緒にいることが多い俺はそいつから内容を聞いているし、使用頻度は限りなく低い。
「キョウちゃんもうボケてんの? そんなんだとすぐに『飯はまだか?』って言うようになっちゃうよ。それで俺が『さっき食べたでしょ』って言うね、絶対に」
「そこまで俺はボケてねぇよ。ここ最近触ってねえから、多分、曲作ってた時に出したまま放置してんだよ、多分な」
「ってことは、新曲!?」
「Walkerのじゃねぇけどな」
「なぬ!? 酷い! 俺たちのことは遊びだったのね!」
嘘くさい泣き真似で顔を隠す大輝。ひっくひっくと声を出すせいで、今度こそクラスメイトからの怪しむ視線が突き刺さる。
「おい、野崎がスガを泣かせてるぞ」
「スガかわいそー」
「いくら優勝したって言っても、王様気取りじゃなぁ……」
聞こえてくるクラスメイトからの雑音。バンフェスで優勝したら、少しはましになるかと思ったけど相変わらずなようだ。こればかりは入学してから一向に変わらない。
「その下手くそな演技やめろ」
「いでっ! いでででで」
大輝を黙らせるために、耳を強く引っ張ったら隠していた手をどけ、間抜けな顔があらわになる。ぎゃんぎゃん痛がるので、顔を鷲掴みにするとすぐに静かになった。
「Walkerの曲は、テーマ性を考えてから悠真と作ってんの。今回作ってたのは
NoKはインターネット上の俺の名前。
機械音声ソフトである
「はひ……わかりましゅた」
「わかればよし」
パッと手を離すと、「あー、痛かった」と大輝は頬をさする。
同時に周囲からのコソコソ話が一層大きくなった。
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