いたい

いたい

　生爪を剥がされたら、痛いに決まっている。

　髪の毛を一気に引っこ抜かれたって、痛いに決まっている。

　眼球に釘を刺されたって、舌をノコギリで切られたって、心臓に杭を打たれたって、痛いに決まっているんだ。

　それなのに、人間は他人の心を傷つける。どれだけ傷ついてもお構いなしに、傷口に塩を塗ってくる人だって大勢いる。

　彼らは知らないのだ。心も体の一部だということを。だから、こんなにも惨いことを平気でするんだ。

　僕が醜い顔なのは知っている。でも、そんなにはっきりと言わなくたっていいじゃないか。どうしてそんなに、僕を傷つけたがるんだろう。

　僕の臭いが強いことも知っている。でも、僕が気付くように鼻を摘ままなくたっていいじゃないか。どうしてそんなに、僕を嫌うんだろう。

　僕がうまく喋れないことは、僕が一番よく知っている。でも、だからこそ、そんなことをはっきりと指摘しなくてもいいじゃないか。どうしてそんなに、僕は避けられているんだろう。

　僕はきっと、どれだけ傷つけてもいい人間だと思われているんだ。だからみんな、僕を傷つけるんだ。

　だから僕は、たくさん傷ついた分だけ、傷つけることにした。僕を虐めた人もそうだし、虐めを放置した先生たちもそうだ。

　僕が受けてきた無数の傷を、彼らにも与えてあげた。そうすれば、僕と同じ気持ちになってくれると思ったんだ。

　でも、彼らは僕の受けた苦しみを全部味わう前に死んでしまった。誰一人として、僕と同じ苦しみを味わうことは無かった。

　僕は、とっても強い人間なのだろうか。僕が強すぎるから、みんな僕を虐めたのかな。僕が恐るべき存在だったからこそ、虐められないように僕を虐めたのかも知れない。

　生爪を全部剥がされても、皮膚をズル剥けにされても、目に釘を打たれても、舌を切られても、心臓に杭を打たれても、生きている人間は僕しかいないんだもの。

　虐められてる人って、実はとっても強いんじゃないかな。

　まあ、僕はこれから絞首刑になるんだけど、それも耐えられそうな気がする。

　だって、僕を虐めた人を罰してくれない国から虐められるんだから、それくらいは我慢できると思うんだ。

　生き残ったら、僕は国に仕返しをしてやるんだ。国民全員に、僕が受けた苦しみを味わわせてやるんだ。

　ふふ、楽しみだなあ。