第2話
他人の店に『ガラガラ、ガッシャーン』と馬車で突っ込んできておいて、「すまない」の一言ですませようとしているのは年老いた貴族ではなくイケメンだった。
そう、イケメン。
すらりとした体つきに、黒い髪、日々の鍛錬で適度に日に焼けた健康的な肌(下手するとどこかのボンボンだと引きこもりでな妙に生っ白くてムリ!!)に真っ白な歯。
はっきり言って物語りにでてくるようなイケメン。
タイプとしては、大金持ちで、自分でも事業をやってて、そして実は爵位もあるような。
たとえて言うならハーレクインロマンスっていうのがイメージとしてはぴったり。
ちょとだけ古風で頑固で、そして俺様なところがありそうだけれど、将来、ヒロインにいいように尻にしかれて家族を溺愛するタイプ。
人生において比較的主役で、『ヒーロー』と言う言葉を物語から与えられるようなイケメンが私の店に馬車で突っ込んできたのであった。
もしかして……助けてくれた?
たしかに、借金取りは瓦礫の下だ。
とりあえず、今日いまここで借金を取り立てることは不可能だろう。
てか、ああっ、やばい。
さっき、「耳をそろえて返してもらおう」って言った背の低い方のごろつき、片方の耳が取れかけてしまっている。
これでは耳がそろわないわ!
野良犬に拾って食べられる前に回収しなきゃ。犬がお腹をこわしちゃう。
私は慌てて、耳を拾って渡す。なんか灰色っぽい。
背の低いごろつきはその耳をうけとって、一応「ありがとよ」なんていいながら、自分でそのまま耳にくっつけた。
ああ、ゾンビだったか。
だから、死んでないし、耳もとれやすいのね。
私は軽く驚きつつ納得した。
ゾンビとか魔族の結婚式だと、指輪じゃなくて実際に左手の薬指をこうかんすることがあると言う話を聞いていたのであんまり驚くと失礼だ。
瓦礫からぬけだした借金取り(ゾンビ)の凸凹コンビは、
「おぼえてろよーっ!!」
といかにも悪役っぽいセリフを残して去っていった。
別に訳の分からない『相続税』といってふっかけたこと以外はまともに仕事をしているだけだと思うのだけれど……自ら悪役のポジションにつくってどういう心境なんだろう。
私は不思議に思いながらも、今までの展開。
つまり、
①イケメンがちょっと乱暴な方法で助けてくれる。
②ゴロツキどもが「覚えてろよ」と捨て台詞を吐いて逃げていく。
の次にくるであろう、
③イケメンが心配する声をかけてくれて、お店をあっというまに修理してくれる。もちろん費用は全額イケメン持ちで。
という展開を目を閉じて待った。
まるで魔法のような展開。シンデレラストーリー。もちろん、自分がシンデレラだなんて思っていない。王子様がお姫様を探す途中に偶然助けた村娘として恩恵に預かれれば幸せだ。
王子様はとっても親切でいい人ですっていうエピソードのためだけに存在する名もなき少女でいいのだ。
なのに、その待ち焦がれた言葉はなかなか私のところにやってこない。片目をうっすらとあけてちらりと様子をうかがってみると、やっとそのイケメンは口を開いた。
「救い料をもらわなきゃな。分割払いも可だ」
えっ、お金取るの?
というか、そっちが勝手に店に馬車で突っ込んできたくせに。
しかも、頼んでないし。
勝手に私の店、破壊してるし。
私は自分の店の入り口をあらためてみる。
うん、すごく大きな穴が開いている。
イケメンの所有する馬車は傷一つないというのに、私の可愛いおかしみたいな水色の壁は崩れている。
こんな不公平があっていいのだろうか……。
私は頭にきたので、イケメンにつかみかかって言ってやった。
「ねえ、借金取りがいたの見えてましたよね? 何であんな風に取り立てられてるかといえば、お金がないからなの。お金があれば当然払うし、お金がないからさっきの奴らに返すお金も、あんたに払うお金もないの!」
令嬢らしからぬ振る舞いだということは分かっている。
だけれど、私の家は爵位を金で買ったような家だし、前世の記憶によるとこういう自分勝手で気ままに振る舞う人間に従っていてはいけないのだ。
こう言う人間に好き放題にさせていると、その後始末は自分にまわってくるのだ。
ちゃんと、できるだけ初期のうちに力関係で相手に従う気がないことを伝えておかなければ。
そう思っての必死の行動だった。
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