第27話

 王太子が言っているのはお告げのことだ。

 アマンダお嬢さまの人生をめちゃくちゃにしても許された理由。

 この王国がお告げによって成り立っているから、そのお告げの実現のためには何をやっても許されるという風潮があるのだ。


「あなたが王太子だろうが、何だろうが私の大切な人を傷つけた。その事実は変わらない」


 冷たい刃を王太子に向けたまま、アマンダお嬢さまは冷たく言った。


「ぼ、僕が死んだらこの国のみんなが不幸になるんだぞ!」


 王太子はおびえた顔をしながら、叫ぶ。

 そう、いままでこのまぬけ国家に誰もが反逆を試みることができなかった理由。それはこのお告げに従ってそこそこ栄えていた。


「別に、大丈夫です。言いたいことはそれだけですか?」


 アマンダお嬢さまは起こっている。

 丁寧で滑らかな口調だけれど、声の響きはどこまでも冷たい。公爵令嬢として育てられた中で彼女が身につけた圧倒的に迫力があり、誰にも有無を言わせない。けれど、失礼にならない声のトーンだった。


「い、いや。俺が異世界から来た女と結婚しないと国民はみんな飢えて苦しむことに……それを見捨てるのか?」

「それは本当のことですか?」

「ああ、見てみろよ。街を。大きな飢饉が起きて、人々はみんな飢えている」

「それは、あなたたちが無能なだけでは?」


 お嬢さまは王太子を淡々と問い詰めていく。

 無能といわれて、王太子は悔しそうに唇を噛みしめる。


「でも、僕がいないと……だめなんだ。僕が異世界からきた女の子と結婚しなければ……」


 王太子は怒られた子供のようにまだぐずぐず言っていた。

 アマンダお嬢さまがそんな王太子を冷ややかな目で見ていると。


「じゃあ、お前は多くの民が傷つくことになんとも思わないのかよ。人殺し。血も涙もない!」


 王太子は切れた子供のようにアマンダお嬢さまにあたりはじめた。


「いや、お告げではこう言っていた。『異世界から来た少女とこの国で生まれた男がこの国を治めよ』とだけ。どこにも王太子である必要なんて書かれていない」


 お嬢さまは冷静に言葉を返した。


「なんで、おまえ……お告げの内容をしっているんだ? 王族でもないのに」


 王太子は驚いた顔でお嬢さまを見詰める。目は見開かれていて、すごくまぬけだ。


「ああ、まだ気づかないんだ? そもそもお告げだって、本物か分からないのに続けたまぬけ王国だけあるね。本当に分からないの?」


 アマンダお嬢さまはあきれたように王太子をみて笑った。

 元婚約者の、自分の人生を狂わせた男のあまりにも頭の弱さをあざ笑っていた。


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