第28話

「分からないって……?」


 王太子が、怯えながらも必死にアマンダお嬢さま、いや、マンディを必死に上から下まで眺める。だけれど、なにも分からないといった様子だ。本当にまぬけな男だ。


「私の婚約者がここまで、まぬけだったなんて……」


 お嬢さまは、あきれたように笑った。


「婚約者って、お前……まさか……」


「やっと、気づいたか。本当、婚約しているときから少し足りないところがあると思っていたけれど……ここまで酷かったとはね……」


「だって、お前。女じゃ……?」


 王太子は訳のわからないといった混乱と恐怖が混ざった表情をしていた。


「ああ、女として育てられた。お前のなんかのためにね」


 アマンダお嬢さまはさらに冷ややかな目で王太子をみつめる。

 そこにはいつも私と話すときの慈悲深さや温かみはなかった。

 そして特別、怒りに燃えることもなく言葉を続けた。


「お告げはね、この国を支配するものが異世界からきた女性と結ばれれば国の安泰が約束されるとしか言っていない。つまり、お前じゃなくても、異世界から来た女性と結ばれた人間がこの国を支配すればいい……」


「どうして、お前がお告げの内容を?」


「本当に、バカだなあ。王宮の文書は婚約者であっても閲覧できるというのに。お前ならいくらでも学び、知ることが出来たというのに。本当に何も知らないなんて……」


 お嬢さまはふと、表情を緩めて私の方をみた。


「さあ、ソフィー。どうする。君はこの男を国に任せたい?」


 私は必死に首を振る。


「じゃあ、おいで。行こう」


 アマンダお嬢さまはそう言って、私の方に手を差し出した。

 すごく優しそうな表情。いつも私をみつめる瞳。

 私の大切な人。


 私はずっと、この人の側にいたいと思っていたんだ。

 自分でも気づかないうちにアマンダお嬢さま、いいえ、マンディを愛していた。


 私は差し出されたマンディの手をつかんだ。

 そっと、側に引き寄せられる。

 温かくて安心できる匂いがした。


「そうやって、異世界からきた女を手に入れてこの王国を支配するきだろう。それが復讐か。お前の人生を踏みにじった。婚約者としてのお前をないがしろにしてきた俺に対する報復なんだろう。所詮、お前にとってもその女は道具に過ぎない。よかったなあ、たまたま異世界からきた女が偶然にもお前の侍女になるなんて、本当にツイているよ」


 私たちの去り際、王太子は半分笑いながらそうまくし立てた。

 甲高い声に早口でおびえて悔し紛れなのは確かだけれど、なぜかその言葉は私の中に妙にひっかかった。


「そこまで、お前らに興味など無い」


 マンディがそう言い捨てたから、王太子に問いただすことなんてできなかったけれど。

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