失ったモノを探して

あさまえいじ

月下にて

 海に浮かぶ孤島。

 月明かりしか灯の無い真夜中。草木が風に揺れる音が響く静寂の中で、キィィン、という甲高い音が突如響く。


「チィッ!」


 舌打ちが聞こえた。

 闇夜の中で人がいた。いや、戦っていた。

 

 人は一人ではなかった。闇夜に紛れる様な、黒を基調とした同じ衣装の服装と素顔を隠す仮面を被っている。その手には剣を持ち、敵対生物に狙いを定めていた。


「‥‥ァ‥‥」


 敵対生物は‥‥‥‥良く分からない。

 人ほどの大きさで二足で立っている。

 腕は異様な紋様が浮かび、籠手の様な印象を受ける程に大きく肥大して、堅牢さを見せていた。

 そして、顔は兜面で覆われている様な、無機物染みたものだった。


「アアアアアアアアアアッ!!!!」


 異様な生物は奇声を発しながら、腕を振り上げ、目の前の人間に襲い掛かる。

 その攻撃は単純ながら、人間を遥かに凌駕する速度で迫り掛かって行き、振り下ろされた。

 グチャッ!! という音が鳴る。

 一撃を受けた人間は絶命した。頭が潰れ、血が噴き出し、大地が赤く染まった。


 だが、人間はひるむことなく敵に挑みかかる。


 ‥‥‥‥


 人間と異様な生物の戦いはしばらく続いた。

 人間は数で押し、異様な生物は力で押した。だが、人間は怪我もしくは死亡しながらも、着実に異様な生物を追い詰め、遂に異様な生物の背後には何もなくなった。

 孤島故に、四方は海に囲まれていた。崖下には荒波が怒濤の如く押し寄せていた。人が落ちれば命はないだろう。


 人間たちが崖に追い詰めたところで、背後から一人の男が歩み寄ると、場所を開けるように集団の輪が開く。

 スラリとした長身で、銀色の髪が風になびく。月明かりに照らされた姿はゾッとするほどの色気が有った。

 

「‥‥このような結果になったか‥‥堕ちたものだな、『英雄』殿」


 男は落胆した表情を浮かべ、異様な生物に語り掛ける。


「‥‥‥‥ァァァ」

「言葉さえ話せないか‥‥悪魔と人間の融合―――『魔人計画』、人間側では最高の逸材を使ってもこの結果とは‥‥落胆を禁じ得ない。『英雄』と持て囃されても、所詮は人間止まりか」


 言葉には侮蔑が込められていた。だが、


「‥‥‥‥ホー、エン、ハイ、ム‥‥」

「ほう、まだ喋れるか。流石だ、『英雄』殿」


 異様な生物は言葉を話した。男の名を呟いた。

 銀髪の男はホーエンハイム、この異様な生物を作る計画を立てた男だった。


「『英雄』殿、其方の失敗は私が生かしてやろう。だから、安心して死ぬがいい。ちょうど、コレの実験も必要だったのでな」


 ホーエンハイムは腰の鞘から剣を引き抜いた。

 刃は長く、黒い。持ち手部分には引き金が付いていた。


「見てくれたよ、『英雄』殿。君が考案した武器だ。生憎とまだ2本しか出来ていない。試作品なんだよ」

 

 まるで新しいおもちゃを自慢するような、優越感に浸った顔だった。


「君で試させてもらおう、『英雄』殿!!」

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